テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「正しさの手前で、観測のあいだに」
第2話 「確かなもの」
記録は、信用できる。
数字は嘘をつかない。
文章は、真実を整理する為にある。
ーーそれでも。
俺は、報告書の画面から目を離し、
司令部隊の奥にある簡易医療室を見た。
そこには、
昨日の任務で戻ってきた隊員達がいる。
軽傷、
打撲、
苦労。
鬼機関の公式記録通りだ。
「副隊長。」
そう呼ばれて振り向くと、
若い隊員が、不安そうな顔で立っていた。
「昨日の任務なんですけど……
あの、記録、本当に合ってますか?」
その問いに、俺は即答出来なかった。
「何処が気になると思った?」
そう返すと、隊員は少し考えてから言った。
「戦闘、もっと長かった気がして……
3分台で終わった感じ、しなくて。」
……同じだ。
また、同じ感覚。
俺は静かに頷いた。
「感覚が違うこと自体は、異常ではない。
だけどーー。 」
俺は言葉を選びながら続ける。
「君が嘘をついているとは思っていないよ。」
その一言で、隊員の肩から力が抜けた。
人は、
『信じてもらえないかもしれない』
と思った瞬間に、記憶を疑い始める。
それが1番、危険だ。
司令室に戻ると、
鈴峰 飴乃が窓際で腕を組んでいた。
「白目さん、現場からの声はどうなってた?」
「一致していたよ。」
俺ははっきり答えた。
「全員が、
『記録より長かった』と感じている。」
「………やっぱりかぁ………。」
飴乃は不思議そうに苦笑した。
飴乃は何だかんだ言って、
異変に気づくのが早い。
だが同時に、
隊員の不安を煽らないよう、
言葉を慎重に選ぶ人でもある。
「記録が間違っている可能性…は?」
「それは否定できない。
だけど、意図的な改変の痕跡はない。」
俺は端末を操作し、
別のデータを映した。
「神奈川・中区。
これ、天賢 透空、河神 祈李の任務ログ。」
「……あの、空鬼か………。 」
「そう。
透空くんの記憶も、
『本人の記憶と一致していない』。」
飴乃は、ふぅ……と1つ息を吐いた。
「白目さん、
白目さんはどう思う?」
俺は珍しく少し考え、正直に答えた。
「記録は正しい。
だけどーー、
記録が全てじゃない。」
そして、続ける
「今は、
記録よりも、人の言葉を優先すべきだ。」
飴乃は、少し微笑んだ。
「白目さんらしい意見ですね。」
一応………褒め言葉として受け取っておこう。
その日の終わり。
俺は、任務記録の松尾に、
小さな注記を残した。
「現場隊員の体感と、
記録時間に差異あり。
原因不明。
継続観測を要す。」
たった数行。
だが、これはーー
『記録に残る《疑問》』だ。
世界が、
何かを選び始めているのなら。
せめて俺達は、
人を置き去りにしない選択をしたい。
記録は、後からでも直せる。
だが、
失われた信頼は、
二度と戻らないのだから。
第2話 「確かなもの」 〜完〜
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!