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🌹はなみせ🍏
「……言っちゃったよ、あの人」
「言っちゃったね、若井。しかも、めちゃくちゃ真剣なトーンで」
僕と涼ちゃんは、少し離れた機材の陰で、固唾をのんでその光景を見守っていた。
あの日、修学旅行生だったらんちゃんをスタジオに連れ込んできた時から、元貴の様子がおかしいのは分かってた。でも、まさか高校生になったばかりの彼女に「上京してここで働け」なんて、実質的な引き抜き……いや、囲い込み宣言をするなんて。
「『家とかはなんとかするから』って、元貴、それもうプロデューサーの域を超えて保護者か何かのつもりなのかな」
「いや、涼ちゃん。あれは保護者っていうより……もっと執着に近い何かを感じるよ」
元貴の背中からは、「絶対に石川には帰さない」という気迫が漏れ出していた。
らんちゃんが「え!?」と驚いてフリーズしている間も、元貴は一歩も引かない。むしろ、彼女の逃げ道を塞ぐように、優しく、でも断定的な口調で追い詰めていく。
「見てよ、あの元貴の目。レコーディングで最高の一曲が録れた時よりギラギラしてる」
「本当だ……。あんな顔されたら、らんちゃんじゃなくても断れないよね」
結局、らんちゃんは「家族と相談する」と言ってその場を後にしたけれど、元貴は彼女を見送った後も、しばらく入り口のドアをじっと見つめていた。その横顔には、自分の提案が通ることを微塵も疑っていないような、恐ろしいほどの自信と、焦燥が混ざり合っていた。
「ねえ、若井。もしらんちゃんの親御さんが反対したら、元貴本当に石川まで乗り込みそうだよね」
「笑えないよ、涼ちゃん。あいつなら『僕が責任を持って彼女の人生を背負います』とか言いかねないもん」
僕たちは顔を見合わせ、小さく溜息をついた。
ミセスグリーンアップルのフロントマン、大森元貴をここまで狂わせる女の子。
彼女が本当にスタッフとして僕たちの仲間に加わった時、このバンドのパワーバランスがどうなってしまうのか。
楽しみなような、少し怖いような。
でも、あんなに必死な元貴を見せられたら、僕たちにできるのは「早くおいで」と心の中で願うことだけだった。
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コメント
1件
ひぇぇ〜...これからどうなっていくのか...楽しみです(っ ॑꒳ ॑c)