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突然だがアラカには会話機能がとても限定的なものになっていた。
以下の二つ、そのどちらかを達成しなければ会話は不可能である。
〝一定以上の信頼を稼いだ相手しかいない環境でなければ、声を発することすら難しい〟
〝魔力の込められた特殊な薬を投与する〟
ゆえに彼女の世話をする点においてはまず【会話ができない】という段階から始まるのだ。
「アラカくんは何故か私が育てたというのに根っこは優しい子だ。
心は酷く壊れているが理性はその限りではない。
一ヶ月ほど接すれば何か変化があるだろう」
彼女、アリヤが屋敷に配属された日に言われた言葉だ。
他にも大きめの辞書みたいなものを支給されており、そちらにも目を通していた。
街の一角に聳える屋敷。そこは何処かの貴族のお屋敷を想像させる綺麗な場所だった。
そしてこれから仕えるであろうお嬢様への挨拶にアリヤは向かい……天使を見た。
「(わ……きれい……)」
部屋にある家具はシックなベットに、透明性のある丸テーブルと椅子だけだ。
そのシンプルな部屋で、アラカは椅子に座って窓から外を眺めていた。
木々が生い茂り、夏風が入り込む中に。彼女はいた。
「……ぁ」
一瞬、見惚れてから
「本日よりお嬢様のお世話をさせていただきます、アリヤです。
よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。アリヤはその綺麗な主人に対して、とても強く惹かれたことを今でも覚えている。
「…………」
「っ……」
そして頭を上げたアリヤは、アラカと瞳を合わせーー絶句した。
「(なんて……)」
そこにいるだけで、見つめられるだけでわかる。
ーーこれは壊れた人間だ。
人として大事な箇所が抜け落ちているとしか思えないほどに、壊れたものを瞳の奥に見た。
「…………」(こくり)
アラカは会釈をする。それは了解した、という意味であり、それだけでアリヤは救われた気がした。
「(うん、大丈夫…大丈夫。
心が壊れてる、と聞いていたけど……しっかりと、声は聞こえてるみたい)」
そしてその後、アリヤは部屋の掃除を始めた。
「(権謀術数の本……? 珍しい本を読んでるんだなあ……)」