「遅いなぁ」
私は自宅で仁美を待っていた。
仁美は一度家に帰って、お泊りセットを持ってくる、ついでにお菓子も持ってくるといっていた。
私はその間に、枢木みくりへ、「HITOMI’s MEMORY」と書かれたカセットテープを彼女宛に送る手配をした。
結局、私はカセットテープの中身を聞くことはしていない。
たぶん仁美のカセットテープには、私にとって不都合な内容が語られているはずだ。
そもそも仁美は、いまどきなぜスマホではなくカセットテープなんてレトロな方法を使っているのだろうか?
その理由はいろいろ考えられた。
親のいない仁美の生活は質素で、クラウド系のサービスを使ってなかったから、万一でもスマホのデータが破損するのを恐れた。
スマホは外でも使うから、外で誤って落としてしまって紛失するのがイヤだった。
あるいはデータが流出して、そこに語られている内容が万が一にでも他の人に聞かれたりするのがイヤだった。
とにかくカセットなんかに録音するからには、他の人には知られたくない、自分一人だけの思い出として大事にしたいという仁美の気持ちの表れだ。
そんな仁美の気持ちが詰まったカセットテープを聞いて、彼女の本心を知るのが、私はいまだに怖かった。
なによりそこには私の汚いところが見え隠れしているかもしれない。
「ラジカセは持ってないし、なにより今は妖魔になったとはいえ、仁美が側にいるんだからそれでいいじゃないか」
そんな風に自分に言い訳して、カセットテープの事はうやむやにしていた。
だが、とうとう犠牲者が出てしまったのだ。私が甘く考えていたせいで。
そこまで分かってても、結局中身を知る勇気が持てず、結局私はみくりにカセットテープをそのまま送ることにしてしまった。
そして私は郵便局で手配をして家に戻り、そして仁美を待っていたのだ。
……だが時間はそろそろ17時を回ろうとしていた。
「くあぁぁぁ……」
思わずあくびが出た。
ここ最近、不安や悪夢にさいなまれてろくな睡眠がとれていない気がする。
そのせいか急激な眠気を感じ始めた。
だけど今は仁美を待っているところだ。
そう思いながらも、私はウトウトしながらそのままリビングのソファで眠ってしまった。
「はぁ……私もバカなのかなぁ……。でも、もう無理かも。精神的に無理」
そうぼやく。
そこには縛られた仁美が頭から血を流していた。
「てゆーか、血、出るじゃん。本当にコレが悪霊なの?」
七緒は仁美を教会に誘い出し、バールで背後から襲って彼女を気絶させ拘束した。
「…………ん」
「目、覚めた?」
「七緒ちゃん?」
「ああ、アンタに名前呼ばれるとなんかムカってなる。ねぇ、そろそろ聞かせてくれない? ねぇ、睦月と遥、アンタが殺したんでしょ? そして死体も隠した。あの子たちは今どうなってるの?」
「なに言ってるの?」
「いいかげんとぼけるのやめてくれない? ほんとにイライラするんだけど」
「………………………………」
「喋らないなら本当に殺すよ、あー、もう殺しちゃおっかなぁ。ていうかさぁ、アンタの事は一年の時から嫌いだったんだよねぇ。どんくさくて貧乏くさくて要領悪いくせに、それなのに一花さんざん甘えっぱなしでさ。あんたなんか、一花にふさわしくないのに、友達ってだけで一花に守られてさ。本当に一年の時から、うざったくてたまらなかった」
「………………………………フフ♪ あはははは♪」
「なに笑ってるの?」
「やっぱりそうだよね。知ってたよ、私、七緒ちゃんが一花ちゃんの事――。私と同じ意味で好きってこと」
「………………………………」
「だから私にいやがらせしてたんでしょ? でも、そんなことしたから、七緒ちゃんは一花ちゃんからかえって嫌われちゃったんだよ。一花ちゃん、本当に真面目でやさしいから。だから、もし私がいなくても、七緒ちゃんは一花ちゃんの恋人どころか友達にもなれなかったと思うの。だいたい、七緒ちゃんは一花ちゃんの事、何を知ってるの? 何も知らないよねぇ? 私は知ってるよ、一花ちゃんの夢、やりたいこと。あとは一花ちゃんが誰にも知られたくない、秘密の願望も。七緒ちゃんなんて、一花ちゃんのこと何一つ知らないくせに、おっかしぃ♪ あはははは♪」
七緒の形相が憎しみに彩られる。
七緒はバールを振りかぶると、そのまま先端を仁美の足に突き刺した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……。フフ♪ もうアンタが人間か悪霊かなんてどーでもいいや。アンタのこと、睦月と遥が苦しんだ分だけ、さんざん痛めつけて――。最後には火あぶりにして殺してやるから」
「――――――――っ!」
私は不意に目を覚ました。
私がうたた寝をしていたのはせいぜい10分くらいだろうか。
(今の夢、まさか――!)
私はイヤな予感がして七緒に通話をした。
しばらくすると七緒が出た。
「もしもし、七緒ちゃん!」
『あー……、一花?』
「ねぇ、今どこで何してるの!?」
『……………………』
七緒は黙っている。私は質問を重ねる。
「ねぇ、もしかしてそこに仁美もいるの? 仁美に何かしたの?」
『……………………』
それでも七緒は何も言おうとしない。
だが、状況を考えればその無言は「イエス」と同じ意味だった。
「お願いやめて! 仁美に酷いことしないで!」
『一花』
七緒の重く低い声。
『悪いけど一花、私はやっぱりコイツは許せない。ゴメン』
それだけ言われて一方的に切られてしまった。
「七緒ちゃん!」
私はあわてて通話するも、七緒ちゃんが応じることはなかった。
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