TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


白い。


どこまでも白い空間(ばしょ)で

緋色の女神が、青年を見つめる。


前髪で瞳を隠した特徴のない青年だった。


「単刀直入に申し上げましょう。あなた様は死にました」


そりゃあ死ぬだろうな、と青年は思う。


火の手もだいぶ回っていた。

今頃、犯人も焼け死んでいるところだろう。


「しかし、あなた様の死は手違いによるもの」

「生き返らせてさしあげたいところですが、そうもいきません」


「代わりに【チート能力】を授け、異世界へと転生させていただきます」


――ヴンッ!!


青年の周囲に緋色が瞬き。

透明色の赤い画面が広がっていく。


火炎魔法、氷結魔法、雷撃魔法、神性魔法……。


数多ある魔法の中から、青年が選んだのは。


「【奴隷魔法】ですか」

「あまり趣味のよい魔法ではありませんですが、よいでしょう」


青年は答えない。

ただ、画面を見つめている。


初めて触れる魔法体系が気になるのだろう。


そう思って、女神は続ける。


「それでは奴隷魔法をあなたに授けます」


「魔法レベルは人間が扱える最大値、第八奴隷魔法までとなります。転生先においては未知の魔法ですから、扱いには注意してください」


画面を操作し、内容を把握していた青年が頷く。

速読しているのか、画面に視線を走らせるとすぐに次のページへ向かっていた。


力を授けられて喜ぶ素振りも、質問もない。


その上、画面を読み終えて呟いた言葉がこれだ。


「完全に理解した」


何の冗談だろうか。

女神は違和感を覚えたが、目元まで伸びた前髪で表情は読み取れない。


気を取り直して説明を続ける。


「最後に転生前の記憶ですが」

「完全に引き継ぐと転生先に馴染めず苦労することが多いので、あえて消させていただいております」


「多くの場合、4~6歳ほどで記憶は回復しますのでご安心ください」


「何か質問などはありますか?」


青年は迷いなく、問う。


「私の名前ですか、いいでしょう」

「私の名はピトス。パンドラのピトスと申します」


「では、よい異世界ライフを」


そう言って転生魔法をかけるピトス。


しかし……。


「あら、なぜでしょう」


何度か転生魔法を試みるも、試みる度にかき消えてしまう。

青年の周囲ではかき消された魔法が散り、高密度の魔力となって空間を歪めていた。


(魔力抵抗《レジスト》? そんな、この短期間で使いこなすなんて。どんな天才……。)


「……ヘタクソが」


青年の声が響く。

髪に隠れて見えない瞳が、ピトスを刺すように見つめている。


ぞっと、ピトスは怖気だった。


「何か」をされる。


魔力反応。

黒と緑の線が重なり、魔方陣が展開していく。


「な、何を」


その中心に立つ青年がそっと口を開いた。


「【対神用強制隷属権発動《アンチオーバー・ドミニクル》……】」


周囲の魔力が収束し、禍々しい紋と化してゆく。


「――ッ!!」


それは神を奴隷とし、使役する呪文。

本来、人の身では扱えぬ第十三の奴隷魔法。神域の禁術だった。


まさか、初手で女神を奴隷にしようとする人間が存在するとは。


青年が女神を指さす。


「【対象、パンドラのピトス……!】」


名前を訊いたのはこの為か!

やらなければ、こちらがやられる!!


「神権発動《オーバー》!超越転生《メタ・リンカーネーション》!」


カッ!!


天より降りし光の柱が青年を包み、青年は跡形もなくかき消えた。

ピトスは息を荒げながら、青年がいた空間を見る。


誰もいない。

あの青年は異世界に転生したのだ。


ピトスはほっと胸をなで下ろす。


恐ろしい青年だった。

対魔神用の神域魔法を行使せざるを得なかった。



転生の際、多くの人間は自分が置かれた状況を理解するだけで一苦労し、魔法の選択だけで悩むものなのに、あの青年は違った。


「女神の説明を聞き流しながら情報を集め、奴隷魔法を選択。名前を聞き出し、女神を奴隷にしようとする?」


行動に無駄がない。


チート能力を授けると言ったが、能力より青年の方がチートだ。

能力ではなく、存在がチートなのだ。


ピトスは思う。


あの青年を転生させて、本当によかったのだろうか。

神界のルールを破ってでも、ここで魂を消滅させるべきだったのでは、と。


遙か異界の地に産声が上がる。

あらゆる奴隷を支配する。影の王の産声が。


loading

この作品はいかがでしたか?

218

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚