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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ダンジョン内部に中継拠点構築を図るべく活動を開始しましたが、それに伴い嬉しい誤算もありました。
例の広い空間に多数放置されていたがらくた類を運び出して調査した結果、どれも価値のある骨董品であることが判明しました。
この中で使えそうなもの、つまり剣などは残して後は『ターラン商会』経由で売却。結果星金貨三枚と言う素晴らしい値段になりました。
ダンジョンにはお宝があると聞いていましたが、開始した直後にこれ程の利益があるとは思いませんでした。
「幸先がいいな、ある程度深く侵入してお宝が手に入るかどうかってのが普通なんだがな」
ベルモンドが売上金を見ながら唸ります。
「運が良かったと考えておきます。この世界は意地悪なので、たまにはこんな幸運も頂かないと」
「けどよ、剣とか何に使うんだ?ボロボロに錆び付いてたじゃねぇか」
ルイが売らなかったがらくたを見ながら首を傾げていますね。
「ダンジョンから採掘された古代の武器には、現在では再現できないようなものがあるとか。まあ例え平凡だとしても武器の予備くらいにはなるでしょう」
これらのガラクタ類はドルマンさん達ドワーフチームがこれから解析して可能ならば復元を目指すそうです。
何があるかは運次第なのですが、今から楽しみですね。
「お嬢様、念のため拠点には機関銃を用意しておきます。また保存食や水などの集積も順調です」
指揮していたマクベスさんが声をかけてくれました。
数少ない車に荷車を強引に取り付けて運用してみましたが、これが効果を発揮して一度の輸送量が飛躍的に増えました。問題があるとするなら、ガタガタと揺れるので割れ物には細心の注意が必要な事。
そして拠点には常時五名の見張りを滞在させて定期的な交代も徹底させました。また万が一の時は拠点を放棄して速やかに脱出することも指示しています。
物資などは補給すれば良いのですが、人命は代えられませんからね。
「ご苦労様です。滞在する人達にはちゃんと決まりを徹底させてくださいね?」
「はっ、抜かりなく行います。お嬢様方はこれから更に奥地へ?」
「はい、少しずつ道を切り開いていこうと思います」
欲を出さずに確実に道を切り開く。時間はかかりますが、幸い直近で重大な案件はないので余裕はあります。
もちろん町の建設、農園の拡大も平行して行っています。先ずは全員が寝泊りできる家屋の建設を優先しています。家具類もドワーフ職人さん達に任せていますので、人件費と材料費くらい。新しく買うより遥かに安上がりですね。
「残念ながら銀の弾丸は量産が出来ておりません。掩護射撃は気休め程度とお考えください」
「仕方ありません、ドルマンさんもそれに掛かりきりとはいきませんから。拠点が襲われないように頑張りますね」
銀が思うように手に入らない以上、私達の武器で数を減らしつつ限界が来る前にダンジョンを攻略する。それ以外に道はないのですから。
準備を整えた私達は拠点から更に奥地へと侵入を開始しました。メンバーは変わらず、聖水を多めに用意しています。
「アスカ、どうですか?」
「……まだ匂わない」
入り口から通路そのものは代わり映えせず、不思議と明るいので視界も良好です。
「なあベルさん、アンデッドって人形だけなのか?」
「いや、そんなことはないさ。俺が知る限りいろんな動物のアンデッドが居る筈だ。犬みたいな奴もいたな」
「ルイ、噛み付かれないようにしてくださいね」
「その時はトドメを頼むぞ、シャーリィ」
「不吉なことを言わないでください、絶対に嫌です」
縁起でもない。
「分かってるよ、まだまだ死ぬつもりは無いからな」
「俺達は冒険者って訳じゃないんだ。ダンジョン何かで死ぬわけにはいかねぇよな」
「……まだ死にたくない。まだなにもしてない」
「そうですね、アスカ。まだ何も成し遂げていません。まだまだ長生きしないといけませんね」
ちなみにアスカには『海狼の牙』から引き渡されたクリューゲの処分を任せました。アスカの里を襲って両親や仲間を虐殺したのはクリューゲらしいので、まさに因果応報ですね。
いや、死ねたのだから地下室送りにされるよりは幸せだったのかもしれません。
復讐は虚しくなると言いますが、晴れ晴れとしたアスカの顔を見れば間違いではなかったと確信が持てます。
私だって復讐すべき黒幕をこの手で始末できれば、虚しさよりも歓喜が胸を満たすでしょう。結局何事も個人差です。
しばらく歩くと再び広い空間に出てきました。
「また広い場所に出たな」
「ガラクタもあるけど、棺桶はなさそうだな。シャーリィ、何かあるか?」
「見る限りガラクタばっかりですが、さて何が出るか」
「……臭い」
アスカの呟きで皆が臨戦態勢となります。
「どうやらここでも歓迎があるらしいな」
「シャーリィ、離れるなよ?」
「護られてばかりではありませんよ?」
銀の剣を逆手に持ち、軽くステップを踏みます。うん、調子は万全。
「さぁて、何が出るかな。おっ?お客さんだ」
ベルの視線の先には、何でしょうか?あれは、牛?あちこちが腐敗した牛の群れが現れました。
「団体さんのお出ましだな。しかも牛だとさ、ルイ」
「焼き肉にしても食いたくは無いけどな!」
「ではルイ、競争しましょうか。どちらが多く倒せるか」
「賞品は?」
「金貨一枚」
「それよりお前と買い物に行きたい」
「ではそれで。私が勝ったら何をしてもらいましょうか」
「何でも良いぜ」
「お喋りはそこまでだ、来るぞ!」
大剣を抜いて聖水を振りかけながらベルが叫ぶとアンデッドの牛の群れが一斉に突進してきました。
「ふっ!」
あんな図体で体当たりされたら、痛いでは済まないでしょう。ならばやり様はあります。
私は素早くステップで突進を避けると銀の剣を真横に突き出します。
すると勢い良く牛が切っ先にぶつかるのですが、まるでバターを斬るような軽さですんなりとその肉体を銀の刃が貫き、首を撥ね飛ばしてしまいました。首を失った胴体はしばらく走って壁に激突して停止しました。
「これは、予想以上に効果的ですね」
「おらぁあっ!」
ルイが気合いと共に銀の槍を突き出すと、突進してきた牛はその勢いのまま槍に貫かれてしまいました。勢いを受け止めるルイの馬鹿力に感心すら覚えます。
これで同点、次の獲物を視線を動かすと。
「ぉおっっ!!」
ベルが大剣による強烈な横薙ぎで文字通り数体をまとめて斬り飛ばしてしまい。
「……やっ!」
アスカは小柄な身体と獣人らしい軽快な身のこなしで次々と牛の上に飛び乗り頭に銀の短剣を突き刺して次の牛に飛び移り再び突き刺すと言った作業を繰り返しています。
ルイも次々と槍を繰り出し牛を始末して…おお、牛を槍に突き刺したまま振り回して鈍器の代わりにしていますね。
……あれ、これって私が一番弱い?
仲間達の大立ち回りを見ながらシャーリィは内心戦慄するのだった。
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。結局あのまま牛のようなアンデッドの討伐は危機に陥ることもなく達成されました。
ただ真っ直ぐに突進してくるだけだったので、対処が簡単だったと言うことです。
で、私は三体討伐しましたが大半は他の三人が討伐してしまいました。何でしょうか、非常に不甲斐ない結果に羞恥を覚えます。
「俺の勝ちだな、シャーリィ。約束通り、次のオフで買い物に付き合って貰うからな」
ルイは七体も討伐したのです。まあ、最初から文句などありませんが。
「仕方ありませんね、付き合ってあげましょう」
「おう」
「ちょっと疲れたが、ここのエリアも無事に解放できたな。お嬢、まだ先に行くか?」
確かに余裕は充分にありますが、一歩ずつ確実に行きましょう。
「先ずは拠点を前進させてガラクタ類を回収します。どれだけ深いか分かりませんが、一歩ずつ着実に進んでいきたいと思います」
「分かった、お嬢の決定に従うよ。焦らずにやるのは賛成だからな」
「……シャーリィ」
アスカが私の服の裾を引っ張ります。はて?
「どうしました?アスカ」
「……一番倒した、ご褒美」
「ああ、確かにアスカが一番倒したな」
そうでした、討伐数ではアスカがダントツなんですよね。
「良いじゃねぇか、シャーリィ。アスカが一番頑張ったんだから褒美くらいはやろうぜ」
「もちろん、頑張りには報いるのが私の信条です。アスカ、何か欲しいものはありますか?」
「……シャーリィ達が持ってる石が欲しい」
「石……?まさか、魔石が欲しいのですか?」
私が問い掛けるとアスカはゆっくりと頷きました。これは予想以上に困難な要求ですね。新しい魔石が手に入ったら優先してアスカに渡すことにしますか。
「分かりました。次に魔石が手に入ったらどんなものであれアスカに進呈します。それで良いですか?」
「……ん」
頷くアスカを見ながら中々難しい約束をしたと思いました。帝国では希少品ですからね。いつ手に入るのか分かりませんから。
「アスカが魔石を使えるようになったら、色々と役立つな」
ベルの言葉も尤もですね。
「魔石が欲しいのか?俺のをやりたいくらいだよ」
ルイの手に入れた水の魔石は、基本的に大浴場で使われていますから戦闘に役立てられないのです。
「けど、良いのか?魔石なんて高価な物を褒美にしたら、やっかむ奴も出てくるぜ?」
「出るんですか?アスカみたいな小さな子に?それは鬼畜の所業ですね。その場合は厳正に対処します」
「大丈夫だろ、シャーリィの気前の良さは皆が知ってるからな。頑張れば自分も褒美が貰えるって皆俄然やる気が出るよ」
そうだと良いのですが。
私達は後始末をしながら拠点を移す準備を進めるのでした。
それから二週間、私達は毎日のようにダンジョンへ入り拠点を前進させながら少しずつダンジョン攻略を進めていました。
ダンジョン内部の通路が真っ直ぐな道が多くて広いので移動には自動車を積極的に採用。最前線まで歩けば数日掛かりそうな距離でも数時間で辿り着けます。
自動車が出す排気ガスの問題も何故か浄化されるダンジョン内部の環境により解決。理屈が気になりますが、まあ便利なのでそのまま活用しています。
「大分深く潜ったな」
「だな。ベルさん、終わりはまだかよ?」
「こればっかりは分からねぇな。ここは広間があるからそれを中継に使えるのが、他のダンジョンとは違うんだよなぁ」
他のダンジョンでは道が狭く入り組み広い空間も滅多に無いのだとか。
「そうなのか。じゃあこのダンジョンは異常なんだな?」
「ああ、異常だな。それに、今更だがこのダンジョンの事が気になる。なにせ、この辺りは一度マクベスの旦那達が念入りに調査してるからな。その時はダンジョンなんて無かった。俺も同行したんだから、間違いない」
そう、この岩場も農園周辺の調査で調べているのです。少なくとも二年前にはダンジョンなんて無かったんです。
「だよなぁ、急にダンジョンが現れる事ってあるのか?」
「いや、聞いたこともないな」
「そうですね」
心当たりは一つだけあります。『大樹』です。ダンジョンを発見する数日前にこの岩場まで影響範囲が広がったのを確認したのです。その直後にダンジョンが現れた。
やっぱり『大樹』には何か重大な秘密があるような気がします。まるで私達をダンジョンへ誘うように。
これまで恩恵を与えてくれたんです。このダンジョンにも何らかの意味があると信じたいものですね。
「おっと、次の広間だ」
私達は何度目か分からない新しい広間を発見しました。
「次は何だろうな?シャーリィ。前はトカゲみたいなアンデッドだったけど」
「……その前は芋虫だった」
「あれは嫌だったなぁ。顔色変えなかったお嬢には感心したぜ」
気持ち悪かったですが、農作業で虫なんて見飽きてますからね。ただ大きくて蠢いていたのは戦慄しましたが。
雑談をしつつ警戒しながら広間には入ると、これ迄とは違うような気がします。
ガラクタが見当たらず、少しですが壁などに装飾品が施されているのが気になります。
「これ迄とは違いますね」
「何が出るか分からねぇからな、警戒を怠るなよ」
「……臭いはしない」
「アスカが言うなら今はまだアンデッドも居ないみたいだな」
「そうだとは思いますが、これは……貴金属がふんだんに使われているみたいですね。状態も悪くない」
飾られていた装飾の施されたゴブレットを見ながら私は感想を漏らします。これ、売ったらかなりの金額になりそうですよね。
「ん、待て。扉があるぞ」
広間の奥には大きな扉がありました。初めての発見ですね。
「いよいよ怪しくなってきやがったな。シャーリィ、離れるなよ?」
「分かっています。アスカ、ちゃんと後ろに居てくださいね」
「……ん」
私達はベルを先頭にゆっくりと扉を開きました。中はこれまで以上に広い空間で、奥の方には湖がありました。地底湖かな?
「随分と明るいな」
そう、まるで昼間のように明るいのです。多分ダンジョンでは一番明るい場所ですね。
「水溜まりがあるな。いや、池かな?」
「地底湖ですよ、ルイ」
「……不思議な臭いがする」
「確かに、水とは違う……黒い水?」
地底湖の水は見たこともないくらい真っ黒でした。なんだろう?
「地底湖は後回しだ。お嬢、最深部に辿り着いたみたいだ」
ベルの言う通り、広い空間の先には道もなくここが行き止まりであることを予想させてくれます。
「では、ここが最深部なのですね?ベル」
「隠し通路とかが無かったらな」
「今まで無かったからなぁ」
「今までは無くてもここに存在する可能性はあるぞ?ルイ」
「不吉なことを言わないでくれよ、ベルさん」
その瞬間まるでこちらを押し潰すような威圧感を感じて皆が身構えます。
そして視線の先にはローブを纏った白骨が佇んでいました。
「まさか、ワイトキングか!?」
「ワイトキングだぁ!?」
嗚呼、世界はやっぱり意地悪です。最後にアンデッド種最上位ワイトキングを出すのですから。
最後に現れた死者の王ワイトキング。シャーリィ達の生存をかけた戦いが始まろうとしていた。