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第96話 〚近づけない距離〛(海翔)
夕方。
スマホを見つめたまま、
海翔はベッドに仰向けになっていた。
澪からの返信は、
いつも通り丁寧で、優しい。
――なのに。
(……なんだろ)
胸の奥に、
小さな引っかかりが残る。
◆
「今日、大丈夫だった?」
そう送った時、
少しだけ、間が空いた。
返ってきたのは、
「うん。ちゃんと大丈夫」
短くて、
否定の余地がない言葉。
(大丈夫、って)
(ほんとに……?)
◆
最近の澪は、
前より強くなった。
黙って耐えることも減って、
自分の意思を、はっきり出す。
それは、
嬉しいはずなのに。
(……でも)
近づこうとすると、
一瞬だけ、距離を感じる。
触れられないわけじゃない。
避けられてるわけでもない。
ただ――
踏み込めない。
◆
「守る」って、
ずっと思ってた。
危ない目に遭わないように。
傷つかないように。
(でも今は)
澪のほうが、
自分より早く前に進んでる気がする。
見えない線を、
もう越えてしまったみたいに。
◆
海翔は、
ゆっくり体を起こした。
(俺は……)
(ちゃんと、隣に立ててる?)
守る側でいるつもりが、
気づけば、
“追いかける側”になっている。
◆
その夜。
ふと、
澪の言葉を思い出す。
「それは、選ばない」
あの時の声は、
静かで、でも強かった。
(……澪)
(俺は)
(お前の選ぶ未来に、ちゃんといる?)
◆
答えは、
まだ出ない。
でも一つだけ、はっきりしている。
澪はもう、
誰かに決められる未来を歩かない。
なら――
(俺も)
(横に立つ覚悟、決めないとな)
守るためじゃない。
一緒に、
選ぶために。
海翔は、
静かにスマホを握り直した。
近づけない距離の正体が、
“恐れ”だと気づきながら。
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