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「俺も動画、楽しみにしてる」
尊さんが言い、分かる人には分かるボディランゲージ――、ピースサインで自分の両目を示し、それを相手の目に向ける――「見てるぞ」をする。
二人は顔を引きつらせると、「ど、どうも……」と言って、足早に立ち去って行った。
「はぁ……」
私が溜め息をつくと、恵が「変なのに絡まれたね」とポンポンと背中を叩いてくる。
「恵ちゃん、俺の顔大丈夫?」
やにわに涼さんが彼女に向き直り、今日も端整な美貌を誇る顔を指さす。
「ちゃんと目が二つに鼻一つ、口が一つついてますが、どうかしましたか?」
「福笑いじゃないんだから……。そうじゃなくて、鬼瓦みたいな顔になってない?」
「大丈夫ですよ。キョウモカッコイイデスヨ」
「棒読みになったの分かったよ?」
彼はニコォ……と笑い、恵の顎をクイする。生顎クイだ。
「涼の顔が鬼瓦になってたら、それはそれで面白いけどな」
「二人そろって、イケメン鬼瓦で売れるんじゃないですか? ウハウハになりますよ」
「そうじゃなくて……」
涼さんはガックリと項垂れ、腕時計を見ると、クイと親指で通路の奥を示した。
「そろそろ行こうか。とりあえず、変なのに変な事される前で良かったよ」
「ビジネスクラスのラウンジでもヤバイのいるんですね」
私たちはゾロゾロ歩きつつ、ラウンジの出入り口へ向かう。
「金持ってればヤバイ奴がいないって訳じゃねぇからな。それに飛行機のシートはマイル修行している人なら、割と簡単に乗れるし」
「あー、そっかそっか。前にバラエティ番組で見ました」
飛行機で国内海外あちこち行く事で、航空会社のマイルを稼いで会員ランクアップをし、ビジネス、ファーストクラスに乗れたり、ホテルの割引、その他サービスの恩恵を受ける人がいるらしい。
基本的に飛行機に乗る回数をこなすか、長距離で稼ぐからしい。
「凄い世界って思っていても、割と手が届きやすいものはあるんだ。……たとえば、俺や涼なんかは、銀座にある会員制のクラブにたまに行ってる。場所は非公開、完全紹介制、しかも厳しい審査のある、伝統ある場所だ。……自慢じゃねぇけど、やり方によっては誰でも経験できるもので、得意になっててもまだまだだ、って事」
「へぇー……! 凄い!」
感心してうなると、涼さんがニコッと笑って言った。
「恵ちゃんと朱里ちゃん、今度そういう店に連れて行ってあげようか。料亭とか天ぷら屋とか、パフェ専門店とかもあるよ」
「興味あります!」
目を輝かせて身を乗り出すと、恵が溜め息をつく。
「……また食い気につられて……」
「秘密結社みたいでカッコイイじゃん!」
「そうだけどさぁ……」
「朱里ちゃんが来るなら、恵ちゃんも来るよね?」
涼さんはニコニコ笑顔で有無を言わせない圧をかける。
「……うっす」
そんなこんなで私たちは出国審査を受け、搭乗ゲートへ向かった。
一昔前だったら、パスポートを開いてスタンプを押していただろうけど、今はパスポートを開いてスキャナーに載せ、画面で顔認証をして終わりなので楽だ。
以前、母にパスポートを見せたら『昔はこんなに厚くなかったのにねぇ』と言っていた。
電子機器に反応するカードみたいなのが入っている分、厚みが増したらしい。
私は恵とお揃いで、ネットで買った葛飾北斎のパスポートカバーをつけている。
ちょうど、赤色の部分が『赤富士』に重なるデザインになっていて、五年の青いパスポートには、『神奈川沖浪裏』の青色と重なっている。
搭乗ゲート近くのベンチに座って時間を待ち、いざ時間が迫ると優先で飛行機内に案内された。
「うわー、テンション上がる! ひろーい!」
個室みたいなボックス席に座れると思うと、俄然気分が高揚してくる。
席に座ると目の前にテーブル、正面の壁にはテレビの液晶があり、勿論エコノミークラスの画面よりずっと大きい。
仕切りを上げると隣の席とは完全に区切られるけれど、下げた状態だと少し身を乗り出すと、顔を合わせて会話できる。
席は横並びに六列あり、行きは私と尊さんが窓側、恵と涼さんは中央、帰りは逆になっているらしい。
長いフライトだけれど、フルフラットで眠れるのでラクチンだ。
……テンション上がって、眠れるか心配だけど。
「夏場はファーストクラスのある飛行機が飛んでなくて、ごめんね」
「なんで謝るんですか! ビジネスクラス、天国ですよ!」
私はなぜか謝ってくる涼さんに向かって、高速で顔の前で手を振る。