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朝、出勤して一番に美香さんが私の肩を叩く。
けれど私よりも浮かれているように見える。
爪も時間をかけたジェルネイルだし、髪も透明感が出ているブラックブルー。
いつもの派手なシャツではなく、白と水色のチェックのレトロなワンピース。
明らかに服装から何から雰囲気が変わっている。
「何かいいことがあったんですか?」
「えー、分かる? 辻さんにコーディネートしてもらっちゃったあ」
あの人、遊んでそうな雰囲気を隠さないくせに、自分の趣味はこんな清純派で大人しそうなファッションなんだ。
でもいつもの美香さんより可愛らしく、守ってあげたいような可憐さは出ている。
「今日、一緒にランチに出ない? 今ならナンパされそうな気がするの」
「ええ、辻さん狙ってるんじゃないんですか」
なんで他の人にもナンパされたがるの。
「本命になれるか、わかんないでしょ。こっちも本気アピはやめてるの」
ウエイターが格好いいカフェにランチに行こうよって、お財布から色んなカフェのスタンプカードを出してきた。
「あ、ここのポイント溜まってる。ここにしよー、デザート驕ってあげるよ」
行きたくないです。
はっきりと断っていたら、開店していないお店のドアを叩く音がして、二人でそちらを見た。
「え……おじいちゃん」
アロハシャツとサングラス、頭にはベレー帽。
いつもの厳格そうな和装ではなく、陽気なファッションのおじいちゃんが開かないドアをガチャガチャ回していた。
「うえ。あのおじいさん、何?」
美香さんが引いているのを見て申し訳なくなる。
「ごめんなさい。おじいちゃんです」
「ああ、華怜のおじいちゃ……はあ!?」
美香さんは私とお爺ちゃんを交互に見て驚いている。
無理もない。お爺ちゃんは駅に自分の顔写真を載せた『駅から10分 丹伊田歯科』と
広告を出している。白衣で銀のフレーム眼鏡で孫の欲目から見てもダンディで格好いい。
あの写真は結構、加工、修正しているし全盛期の時の写真だけど、でもあのイメージを持っている人もすくならずいる。
「写真詐欺じゃない?」
「うん。おじいちゃんは黙ってたら格好いいの。昔から」
渋々ドアを開けると、飛び込んできたのはマカデミアナッツのチョコレート。マーライオンの写真が載っている。
「華怜~。ハワイのお土産だぞ」
「シンガポールじゃないの? てかどうしたの? 私、仕事中だよ」
定年退職してから、黙って厳格そうなふりをしていた期間の爆発かのごとく弾けたおじいさんになってしまっている。
「白鳥さんにはアポ取ったよ。午前中は空いてるから気軽にどうぞと」
「そうなの。でも旅行に行ってたの?」
「そう。海外旅行帰りだよー」
海外旅行って。
おじいちゃんが退職して、しばらく名誉会長を名乗って経営に口出してたけど、それも退いたんじゃなかったの。それから歯科は経営が傾いてるって聞いていたのに。
「えっとおじいちゃん、シンガポールとハワイだけ?」
「半年でヴェネツィア、台湾、韓国、ドイツ、イタリアも行ったかな」
イタリアとベネツィアは同じなのも分かっていない老人が、半年でそんなに海外に?
というかそんなに散財するから経営が苦しくなるのでは?
おじいちゃんの行動に眩暈が起きそうだった。
「おじいちゃん。お金は大切に使ってよ」
お爺ちゃんには確か、私が婚約した理由を告げていないはず。
母方の親戚は、歯科医や医師等のエリートばかりだって母が自慢していたし、私みたいに専門学校出なんて、学費を出してもらっただけでも感謝しなくちゃいけないはずだけども。
「なーに。お金のことは全く心配いらないよ。それより、華怜の首から下げてる社員証、なぜまだ苗字が――」
「ああああっと、ランチね。ランチでゆっくり話そうよ、おじいちゃん」
砂原 紗藍
#再会