黒い影に包まれそうになった瞬間、アランは意識を引き裂かれるような感覚に襲われた。
――“君が選ぶんだよ、アラン。”
その声とともに、目の前の風景がまた一変する。
広場は消え、代わりに現れたのは見覚えのある場所――リリスと最後に話した、小さな湖のそばだった。
「ここは……?」
目を見開くアランの前に、一人の少女の背中が見える。淡い金の髪、静かに水面を見つめていた。
「……リリス?」
アランが声をかけると、その少女はゆっくりと振り返った。けれど、顔ははっきりと見えない。霧がかったように、ぼやけていた。
「アラン。あの時、私が何を考えてたか知りたい?」
まるで夢の中のような口調だった。
アランは震える声で答える。
「……お前を助けたかった。それだけだ。」
少女の表情が、ほんの一瞬だけ微笑んだように見えた。
「“あの時”に戻りたいと思ったことはある?」
アランは答えられなかった。
“もう一度……“あの時”に戻ろうよ”
その言葉の意味が、少しだけ分かる気がした。
戻るべき“過去”には、リリスの後悔も、アランの無力さも、すべてが残っている。
「でも、もう戻れない。だから――選ぶしかないの。」
少女は指を差した。するとアランの背後に、再び“今”の荒れ果てた世界が見えた。
そしてその向こうには、影に包まれながらもなお、希望を失っていないフィオナとカイルの姿があった。
「選んで、アラン。未来か、過去か。」
心が引き裂かれそうになる中、アランは静かに目を閉じた。
そして、言葉を絞り出す。
「……俺は、終わらせない。“今”を変える。お前の言葉に縛られない。」
少女の姿がスッと消え、視界が暗転した。
次の瞬間、アランは荒野に倒れ込むように戻ってきた。カイルが支えてくれる。
「おい、どうした!? 今、光に包まれて――」
アランはうつむきながら答えた。
「……見たんだ。“あの時”を。戻れないけど、前に進めるって……信じたい」
フィオナが静かに頷く。
「じゃあ、進もう。影の言ってた、世界を“終わらせない”ために」
アランは立ち上がった。もう迷わない。この世界と、リリスの運命を背負って。
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