テラーノベル
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放課後の駅。
人の波に飲まれながら、私はあの人を探していた。
もう「会わない」と決めたのに、どうしても足は改札口へ向かってしまう。
彼と最後に手を振った場所だから。
あの日のぬくもりが、まだ手のひらに残っている気がする。
小さな声で「一生、大切にする」なんて、信じてしまう言葉を言ったくせに。
今はもう隣にいない。
けれど、視界の中に彼の背中を探してしまう。
見つからないと分かっていても――恋しい。
「さよなら」じゃなくて「またね」だったら、未来は違ったのかな。
電車が出発する音が響いて、胸の奥がひときわ痛んだ。
それでも、私は今日も改札口を見つめてしまう。
彼がふいに振り返って、笑顔で手を振ってくれる気がして。
彼と最後に会ったのは、夏の終わりだった。
夕暮れのオレンジが街を染めていて、蝉の声と、どこかから流れてきた風鈴の音が混ざり合っていた。
「一生、離さない」
彼はそう言って、私の肩を抱き寄せた。
その言葉を信じて、私は未来を思い描いた。隣に彼がいて、笑い合いながら歩いていく、そんな未来を。
けれど現実は違った。
気づいたら、その腕はほどかれていて、私の手は虚空をつかむばかり。
別れた日から、私の時間は少し止まったままになっている。
夜になると、彼の声を思い出す。
眠る前に届いた「おやすみ」の短いメッセージ。
朝起きたら見つけていた「おはよう」の言葉。
もう、どれも届かないのに。
気づけば、スマホを開いては、空っぽの通知欄に目を落とす自分がいる。
友達は「時間が解決してくれるよ」と言う。
でも、本当にそうだろうか。
胸の奥で疼くようなこの恋しさは、時間なんかで消えてくれるものじゃない気がする。
歩いていると、不意に風が吹いて、髪が揺れる。
その瞬間、なぜか彼に抱きしめられた感覚を思い出してしまう。
温度も、匂いも、心臓の鼓動さえも。
泣きたくなる。戻りたいと願ってしまう。
「もう一度やり直せたら」そんな思いが胸を満たすけれど、それは叶わない夢だと分かっている。
それでも私はまだ、恋をしている。
過去の彼に、そして今も心の中に生きている彼に。
――恋しい。
その一言だけが、夜風に溶けて消えていった。
「好きだよ」
彼が最後にくれた言葉は、それだった。
でも、その後につづいたのは――
「でも、一緒にはいられない」
頭では理解しているのに、心が追いつかなかった。
涙でにじんだ景色の中で、彼の背中だけがはっきりと見えた。
振り返ることなく歩いていく、その背中を、私はただ見送るしかなかった。
帰り道、何度も何度もスマホを開いた。
きっと彼から「ごめん、やっぱり戻りたい」って連絡が来る気がして。
だけど画面は冷たく、通知は一つも光らなかった。
一緒に歩いた道、一緒に笑った場所。
全部が、思い出すたびに胸を締めつける。
「一生離さない」って言ったのは嘘だったの?
それとも、あの瞬間だけは本当だったの?
答えはもう、彼にしか分からない。
でも彼はもう、私の問いかけに応えてはくれない。
心の奥にまだ彼がいる。
忘れたいのに、忘れられない。
それが“失恋”なんだと、今になってやっと分かった。
――さよなら。
そう呟いてみても、涙に消えてしまった。
気分転換です。私の実話少し含む。
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