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正午前、翡翠城のホールでは勇壮な音楽と共にパーティーの主役質が続々と会場入りをし始めた。
「レンゲン公爵家御当主カナリア=レンゲン女公爵閣下並びにご息女ジョセフィーヌ=レンゲン公爵令嬢様!ご入場です!」
壮大な音楽と会場に居る貴族達の拍手を受け、エメラルドグリーンのドレスに身を包んだカナリアがブルーのドレスを身に纏ったジョセフィーヌを連れて入場。西方の雄の登場により、会場内の雰囲気も幾分厳格なものになる。
早速シャーリィが近付いて合流を果たす。
「閣下、ジョゼ姉様。とてもよくお似合いですよ」
「あら、ありがとうシャーロット。貴女も可愛らしいわ」
「あっ、ありがとうシャ……シャーロット……」
シャーロットとして声をかけるシャーリィに、カナリアは愉しげに、ジョセフィーヌは緊張しながら返した。
そんな妹分の反応に笑みを張り付けるシャーロット。
「会場は見事に勢力図に分かれています。ただ、南部閥のワイアット公爵が御嫡男を伴って参加されるとは思いませんでしたが」
先に会場入りしたシャーリィは、早速情報を共有する。
「多分、フロウベル侯爵が参加したからよ。あそこの令嬢、つまり聖女と婚約関係だった筈だから」
扇で口許を隠しながら笑みを深めるカナリア。彼女の言葉に反応したのは、意外にもジョセフィーヌだった。
「婚約者、ですか」
「そう言えばジョゼ姉様には婚約者がまだいませんね。閣下、何かお考えが?」
貴族社会では十二歳から成人扱いがされ、それから十五歳に至るまでに婚約が結ばれる。早ければ九歳での婚約等もあり得る。もちろん政略結婚ではあるが、それが貴族社会の常識である。
そんな中、見向きもされない弱小貴族ならまだしも、公爵家の令嬢であり今年で十五歳になるジョセフィーヌに婚約者が居ないのは異常とも言える。
「ジョゼに見合う相手を選ぶのが難しいのよねぇ」
もちろんジョセフィーヌにも西部閥貴族はもちろん、他の派閥の貴族からも多数の縁談が持ち込まれているが、それらに対してカナリアが難色を示しているのも事実だ。
カナリアに近しい貴族達は彼女がジョセフィーヌを溺愛しているのを承知しているため、婚約については特に言及はしていない。どちらにせよ、帝国西部を統べる公爵家の令嬢である以上何れはと考えてはいるが。
「ふむ、閣下の御懸念も理解します。“妹”の贔屓目から見ても、ジョゼ姉様は器量の良いお方。釣り合う殿方は帝国広しと言えど、中々居りますまい」
「分かってくれるかしら?シャーロット」
「はい。ですがご安心を、ジョゼ姉様。何れ素敵な殿方を見付けてくださいますよ」
「わっ、私にはまだ早いと思いますから……」
自分の婚約話になり赤面するジョセフィーヌ。花も恥じらうお年頃であり、見る者の庇護欲を刺激する。
そんな姿を見せられては、シャーリィとしても無関心には慣れなかった。生半可な男性では許せるものではない。カナリアとシャーリィの想いはひとつになる。
談笑している間に大貴族達の入場が終わり、用意された壇上に赤目赤髪の青年が上がる。形式上の主催である第二皇子ナインハルト=フォン=ローゼンベルクその人である。
「先ずはこの場に集まってくれたお歴々に感謝したい。皆も知っての通り、現在我が帝国の置かれている状況は決して楽観視できるものではない。我が父である皇帝陛下が病に臥せっておられ、帝国の統治は不安定になってしまっている。そんな中、帝国に近代化なる動きが現れた。
最初に言っておくが、私個人として生活が便利になることを否定するつもりはない。より良い生活を送れるのならば、それを享受するのは悪いことではない。だが、それ故に苦しむ者が現れては意味がないのだ。
ライデン社の言う近代化を行えば、忠勇なる諸君らを蔑ろにする結果となるのは明らかだ。私は、長年帝国に尽くしてくれた諸君らを切り捨てるような恩知らずにはなりたくない。それは諸君らも同じだろう」
第二皇子の演説を聞き流しながら、シャーリィは静かにカナリアにだけ聞こえるよう口を開く。
「なるほど、これが古きよきロザリアですか」
「そうよ、貴女はどう見る?」
シャーリィです。お姉様が愉しげに私へ視線を向けてきたので、正直に答えることにしました。
「言うまでもないでしょう」
私としても伝統を否定するつもりはありませんし、変えてはいけないものがあることも理解はします。
ですが、それが既得権益を護るためだけの方便となっては意味がありません。確かに近代化の為には中央集権が必要不可欠です。近代化には広大な土地が必要になりますし、豊富な資源や円滑な流通も外せません。
しかし、各貴族がバラバラに領地を持ち資源を独占している現状では実現不可能です。領地を跨げば関税の問題もあり、余計なコストがかかってしまいます。
なにより、権力の強大な後押しがなければ近代化は成し遂げられません。
……近代化には貴族の存在が邪魔です。少なくとも今のように各貴族が領地をバラバラに統治するような状態では。
しかし、現在の貴族の大半が現状維持に固執して近代化を否定しています。もちろん私だって貴族令嬢として想うところはあります。身分にはそこまで関心はありませんが、アーキハクト伯爵家を再興させたいと言う想いはあります。
生き残った貴族令嬢としての責務を忘れたつもりもありません。
難しい問題ではあります。近代化を円滑に成し遂げるためには、既存の貴族達を納得させるか内戦で滅ぼしてしまうしか方法はありません。
「また物騒なことを考えていそうな顔ね?シャーロット」
「悩ましい限りですよ、閣下」
思索に耽っている間に第二皇子殿下の演説が終わり、パーティーが本格的に開催されました。
貴族達があちこちへと世話しなく行き交い情報収集と交流の拡大を目指しています。
ここで大事なのは、レンゲン公爵家の方針ですが……。
「シャーロット、ジョゼと一緒に東部閥の貴族と交流しなさい。一応融和の姿勢を見せる必要があるし、貴女も情報を集めやすいでしょう?」
つまりジョゼを護りながら動けと。
「畏まりました、閣下。ジョゼ姉様を必ずお守りします」
会場には衛兵に扮したレイミもいますし、何があっても対処できる筈。先ずは情報を集めないと。