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47 ◇間抜けな男とモラハラ女
それから小一時間ほどして北村さんと一緒に松尾さんが店から出たあとで、
私は呟いた。
『何とかセーフ!』
松尾さんから『淳子さんの印象はどう?』などと、訊かれずに済んだからだ。
できれば、密告するようなことはしたくない。
興信所がいい仕事をしてくれることを祈るばかりだ。
******
松尾の話に驚かされて心拍数が上がってしまったり、また彼に対する心配もあったのだが、
しっかりとした両親がついていて何とかなりそうな道筋も見え、圭子はほっと胸を撫で下
ろした。
だが……運命はその後、更なる難題を圭子の元へと運んでくるのだった。
******
松尾から淳子との結婚話を聞かされた数日後のこと、1通のメールが届く。
その内容とは……。
『お久しぶりです。先日は松尾さんがお世話になったみたいで……』
まるでもう松尾の妻にでもなったような気でいる文面を読み、圭子は
軽くめまいがした。
『私たちの結婚を反対しているわけじゃないけど彼のご両親が用心深くて、
私のことを調査すると彼に勧めているらしくて困ってるの。
どこの誰とも分からない調査員にいろんなところに出向かれて根掘り葉掘り
聞かれたりして調べられるなんて私、気持ち悪くって……』
叩けば埃の出てくる身だからね、そりゃあ嫌でしょうよ。
だけど、松尾さんが意外にもこんなに間抜けだったなんて……。
圭子は呆れて手を額に当て天を仰いだ。
そう、淳子が調査されることを知ってるってことは、そういうこと。
松尾が彼女に知らせたからに他ならない。
「もう、松尾さんったら何考えてるの。
これじゃあご両親の思惑に反するじゃない」
こんなことになるなんて……全くぅ~。
松尾の思慮が足りず浅はかな行いに辟易し、恨みたくなる圭子だった。
『だから、圭子ちゃん私の事を学生時代からの友人で悪い人間じゃないって
ことを彼と彼のご両親の前で証言してくれないかな。宜しくお願いします』
と文面は続いていた。
48 ◇恫喝
よくもまぁ、よくもまぁと全文読み終えたあと、鼻息荒くなる圭子だった。
10
#シングルマザー
水羽凛
174
#異世界転移
花月夜れん
2,595
フィオレ
86
私や匠平くんにしたことを棚に上げてよくもまぁ、こんなこと頼めるわねー。
呆れた。
圭子はすぐに返信した。
『ご無沙汰してます。そんな大事な案件に私が立ち会うわけにはいきません。
力不足なのでごめんなさい。
P/S:そういうことでしたら、親友的立場の人に頼んだほうがいいのでは
ないですか』
********
淳子のメールが届き返信した日の翌日は水曜日で、その日は圭子のラウンジ
カメリア出勤日だった。
出勤するとすでに席に付き自分を待っていたと思われる淳子の顔が見え、
圭子の心中に嫌な予感が走った。
着替えるため衣裳部屋に向かうとスタッフから指名が入ってると伝えられる。
それは淳子だった。
昨日の今日のこの素早い淳子の行動に、彼女の必死さが表れていた。
そこで圭子は黒服のまとめ役とホステス仲間に根回しをしてから
淳子の席についた。
「いらっしゃいませ。松尾さんとはご一緒じゃないんですか?」
「昨日の件、考え直してくれない? 私困ってるのよ」
「私には荷が重すぎます。誰かもっと親しくしている人に頼んでください」
圭子の拒絶が固いものだと分かると淳子は本性を顕わにし、大声で騒ぎ始めた。
「何よ、もったいぶらなくたっていいじゃない。
私があなたの旦那から言い寄られたからって逆恨みするのは止めなさいよ」
そう絡み始めた。
淳子が気付かない近くの場所からその時、根回し済みのお店の子がスマホで
きっちり一部始終を録画していた。
「また来るから。よく考えておくことね」
そう言い置き、淳子は帰って行った。
49 ◇応援団
圭子は心配して集まってきてくれた人たちの前で現状を語る。
「あの人ああ見えて、私にお願い事をしに来てたんですよ。
だけど今の態度はどう見ても人にお願いするような態度じゃないですよね」
また来ると言って帰って行った淳子のことを思うと、松尾の名は伏せるとしても 彼女がどういう人間で何をしようとしているかということは、仕事仲間には話しておかなくてはと思った。
・あの女性は小泉と言って、ここのお客様が結婚を考えている女性であること。
・お客様のご両親が彼女の事を興信所を使い調べようとしていること。
・自分は彼女から酷いことをされたことがあり、とてもじゃないがお勧めなど
できないということ。
・本当ならば、お客様にあの女性は止めておけと言いたい
こと。
だけど、自分とお客様の距離感を考えるととても言えないこと。
・彼女は身元調査をされるとまずいことがたくさんあるので、必死になって
自分にお客様とそのご両親の前で自分には何の問題もなく良い女性であると証言 させようとしていること。
などを圭子は簡潔に説明した。
「渚ちゃん、大丈夫よ。彼女が来たらできる限りフォローするから」
そう季々が言ってくれた。
「ね、みんな……」
愛理ちゃんやほかのホステス、黒服さんたちも話を聞いた人たちは
皆頷いてくれた。
お客様の相手をしている他のメンバーにもきっと彼らが後々説明してくれるだろう。
次にまた来襲するという淳子に嫌悪感を覚えるが、味方がいると思うと
圭子は何とか気持ちを立て直すことができた。
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