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#王子
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頭上で、大きな、大きなため息が聞こえた。
「……狼さんはやめろ。ルークと呼べ」
「え?」
「え……?」
呆気に取られて顔を上げると、彼はどこかバツが悪そうに視線を逸らしていた。
「俺の名は、ルークだと言っている。お前はお前でいいのか?」
「あっ、はい!ルークさん…ですね…!私は、ベルです!」
名前を呼び合う。
それは、私を「喰らう魔物」としてではなく、一人の「人間」として認識したということだろうか。
「……大体の事情は分かった。手当ての礼だ。治療薬くらいなら、作ってやってもいい」
「えっ……!本当ですか!?」
私は飛び上がるように立ち上がった。
視界がぱあっと明るくなる。
お父様が助かる。
希望という名の光が、私の胸を焦がした。
「ありがとうございます、ルークさん……!本当に、ありがとうございます……!!」
私は、彼の前で何度もお辞儀を繰り返した。
喜びのあまり、先ほどまでの恐怖なんて、どこかへ吹き飛んでしまった。
だが、彼はは冷静にその大きな爪を立てて私の歓喜を遮った。
「だが、条件が3つある」
「条件…?何ですか……?」
私は、彼の言葉に、我に返った。
覚悟していた。
なにかを差し出せと言われることも。
だが、彼の口から出た言葉は、予想外のものだった。
「……1つは、俺の館の簡単な家事をお前に任せたい。お前のような令嬢にできるかは知らんがな」
「家事……?それぐらいでしたら…」
「2つ目は、夜に一人で外に出るな。何があってもだ」
「……は、はい」
「そして最後に3つ目は、俺が留守のとき、誰がやってきても、決して扉を開けるな。絶対にだ」
私は三つ目の条件に、奇妙な違和感を覚えた。
これではまるで、私を守ろうとしているのか、それとも……。
「……つまり、私はここで、ルークさんと一緒に過ごすということですか?」
「……俺は、人間が嫌いだ。…だが、お前が父を想うその心は、……信じてもいいと思った」
ルークはそう言うと、不器用そうに顔を背けた。
「薬は一週間で完成する。それまでお前はここで過ごせ。……嫌なら、今すぐ去れ。薬もやらん」
一週間
家ではお父様が待っている。
でも、ここで逃げれば薬は手に入らない。
それに、こんなにも慈悲深い条件があるだろうか。
私は彼の琥珀色の瞳を見つめ返し、一際力強く答えた。
「……分かりました。その条件、すべて謹んでお受けします」
私は、自分の決意を彼に伝えた。
お父様のため。
私は、一週間、ルークさんの館で一緒に過ごす。
それが、私の人生の、終わりの始まりなのか
それとも、新しい何かの始まりなのか。
このときの私には、知る由もなかった。