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緊張の表情を浮かべ、老日を睨む蘆屋。
「相当やばそうだし、本気で行かせてもらうけど」
「落ち着け。そもそも、俺たちは争う必要があるのか?」
蘆屋は式符を構えた腕を僅かに下ろす。
「事の顛末はそっちの白い鴉から聞いてるか?」
「……縄張りに変な奴が来て、嗅ぎ回ってるって。だから、邪魔してくるようならやっといてって命令したんだけど、それから戦闘になったって感じ」
「オレは何も邪魔した覚えはねぇが。寧ろ、情報収集の邪魔をされたのはこっちだぜ?」
カラスが言うと、蘆屋は溜息を吐き、一枚の式符を取り出した。
「『式神召喚。連なる式の鳥、シロ』」
ぼとり、白い鴉が現れて地面に落ちる。
「ほら、起きてシロ」
蘆屋が霊力を流しながらシロを揺すると、シロはゆっくりと瞼を上げた。
「……はッ!?」
シロは慌ただしく起き上がり、カラスを睨みつけて……転倒した。
「ぐ、ぐぬ……貴様……」
「落ち着けよ、白いの。今は話し合いの時間だぜ? また戦闘になる可能性も無くは無いけどな」
カラスの言葉に、シロは混乱したように周囲を見る。
「シロ、この黒いカラスが邪魔してきたんだよね?」
「えぇ、忌々しくもこの鳥は我が縄張りを侵犯し、あまつさえ群れを譲れと宣ったのです! 許せますかッ、この野蛮な鳥をッ!?」
熱くなり、カラスに飛び掛かろうとするシロだが、また転倒して悲鳴を上げた。
「オレがどこに居ようとオレの自由だろ? そもそも、オレ達は普通、広い縄張りを持たねえ。精々、自分の巣とその近くが縄張りってくらいだ。なのに、街一つ縄張りなんて言い張られても困っちまう。それに、群れを譲れってのも交換条件みてぇなもんだ。そっちが群れ全員でオレを食い殺すって言うからな。だったら、オレが勝った時にはその群れを貰うくらいがフェアだろ?」
「……どういうことだ? 何を言っているのか良く分からんぞ、貴様」
「黙ってろ、鳥頭」
「何だと貴様ッ!!」
飛び掛かろうとするシロを蘆屋が抑え、老日は無表情で見ている。
「つまり、これはカラス同士の縄張り争いってだけの話ってことだな?」
「……かも」
短く答えた蘆屋に、老日は頷く。
「だったら、俺達が争う理由はもう無いな。勝ったのはカラスだ。あぁ、黒い方のな。だから、約束通り縄張り……というか、その白い奴の群れは貰う。代わりに、俺の使い魔に襲い掛かったことは不問にしよう」
「なッ、そもそも約束などしていないッ! 群れを貰うなどそこの鳥が勝手に――――ッ」
老日の剣がシロに向けられた。
「分からないか? アンタは負けてるんだ。温情が無ければ既に死んでる。死人に口なしだ。あんまり喚くなら、諺通りにしてやるが」
「それ、は……」
拒否の言葉も肯定の言葉も出せないシロの頭に蘆屋の手が乗せられる。
「分かった。こっちが悪いみたいだし、群れはあげるよ。縄張りも好きにしていい。でも、一個聞かせて」
老日は剣を下ろし、耳を傾ける。
「群れを欲しがるのも、情報収集の為でしょ? 何をそんなに探し回ってるの?」
「宛ては付いているが、明確に相手が誰かは分かっていない。ただ、俺のことを探ってる奴を逆に探り出そうとしているだけの話だ」
あまり具体的な情報が無かったので、蘆屋は少し不満そうな表情になった。
「……それ、僕も手伝ってあげようか? ほら、襲っちゃったお詫びにさ」
蘆屋の誘いに、老日は首を振った。
「いらないな。それに、アンタみたいな学生が関わるべきことじゃない。恐らくだが、かなり危険な相手だ」
老日がにべもなく断ると、蘆屋は眉を顰めた。
「学生だと思って舐めてるでしょ? 僕、これでも蘆屋家の次期当主は確実って言われてるくらい優秀な――――」
「――――カラス一匹にこの始末みたいだが」
蘆屋は黙り、そっぽを向いた。
「ふん、折角協力してあげようと思ったのにさ。別に、僕は良いけどね。僕は良いけど、勿体無いことしちゃったね」
「……好奇心があるのは良いことだが、いつか痛い目を見るぞ」
隠しきれない興味に、老日は呆れたような顔で言った。
「……群れはあげるけど、もしソロモンって奴の情報を手に入れたら教えてね。これ、名刺。カッコイイでしょ?」
差し出された名刺。しかし、老日は僅かに険しい表情を浮かべている。
「……アンタ、ソロモンを探ってるのか?」
「んー、そうだよ。僕って言うか、お家の命令でね。なんか、ヤバい奴が復活しようとしているから、優秀な陰陽師は皆そいつの調査をすることになってね。シロに任せてた情報収集もその一環」
そうか、老日は呟いた。
「……陰陽師全体で情報共有がされているって認識で良いか?」
「うん。ソロモンに関してはそうだね。なんか、最近の悪魔召喚事件とかもソロモン絡みっぽいって聞いたよ」
「他に、何か聞いてることは無いか?」
「最近多発してる誘拐事件はソロモンの手勢によるものだって話は聞いたね。生贄とか洗脳とか、そういうのに使うのかもって」
老日は少し迷い、そして頷いた。
「……良いだろう。俺がもし、ソロモンの情報を手に入れたら共有しよう。但し、アンタもソロモンに関する話を聞いたら教えてくれ」
情報の共有。老日の申し出に、蘆屋は意外そうな顔をしながらも頷いた。