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蒼音
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「……あと、半年くらいです。」
その一言で、世界の音が消えた。
白い診察室。 窓の外では春の日差しが校庭を照らしていて、どこからか子どもたちの笑い声が聞こえる。
なのに、その声だけが遠かった。
「心臓の状態は、これ以上薬で抑えるのが難しくなっています。」
医師の言葉は静かだった。
隣に座る母さんは何も言わない。 ただ膝の上で握りしめた手が、小さく震えていた。
俺は中学二年生。
生まれつき心臓病を抱えていて、体育はいつも見学。階段を駆け上がるだけで息が切れる。入退院を繰り返す生活にも、もう慣れていた。
でも――。
「余命半年。」
その言葉だけは、どうしても慣れられなかった。
「……そうですか。」
自分でも驚くほど、冷静な声が出た。
泣くことも、怒ることもできない。
ただ、「終わるんだ」と思った。
まだ十四歳なのに。
病室へ戻る途中、母さんは何度も「ごめんね」と繰り返した。
俺は笑って首を振る。
「母さんが謝ることじゃないよ。」
そう言ったはずなのに、胸の奥が少し痛んだ。
病気のせいじゃない。
本当は、怖かった。
夜になると眠れない。
あと半年。
半年って何日だろう。
夏が終わる頃には、俺はいないのかな。
そんなことばかり考えてしまう。
スマホを開く。
クラスのグループには、修学旅行や文化祭の話が流れていた。
『早く学校来いよ!』
『退院したら遊ぼうぜ!』
送られてくるメッセージを見つめて、画面を閉じる。
――もう約束なんて、したくない。
どうせ守れないから。
期待させたくないから。
誰かと仲良くなればなるほど、別れが苦しくなる。
だから俺は決めた。
残り半年。
誰とも深く関わらない。
それが一番いい。
そう、自分に言い聞かせた。
翌日。
病室のカーテンを開けると、やわらかな朝日が差し込んだ。
いつもと同じ景色。
いつもと同じ病院。
何も変わらないはずなのに、世界だけが少し色を失ったように見えた。
その時だった。
「すみませーん!」
廊下から元気な声が響く。
「道、間違えました!」
看護師さんたちが慌てる声。
思わず病室の外を見ると、一人の少年が困ったように笑っていた。
目が合う。
「……あ。」
少年は少し照れくさそうに笑って、小さく手を振った。
その笑顔を見た瞬間。
どうしてだろう。
もう誰とも関わらないと決めたはずなのに。
止まっていた時間が、ほんの少しだけ動き出した気がした。
その出会いが、残された半年を、そして俺の運命を大きく変えていくなんて――。
この時の俺は、まだ知らなかった。
コメント
13件
感動系すき
うまぁ、
「余命半年」第2話、読み終えました。 診断のシーン、すごく静かで、でも一つ一つの描写が心に染みました。母さんの震える手、クラスの楽しい話題を見つめて閉じるスマホ。「もう約束なんてしたくない」という言葉に、彼の優しさと諦めが同時に見えて、胸が締め付けられました。 そこに出てきた、道に迷った少年の笑顔。あの瞬間、色を失っていた世界がほんの少し動き出した表現が美しかったです。この先どうなるのか、すごく気になります。