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「マナ、山崎の奥さんが許してくれたよ。親にも言わないし、学校にも報告はしないって言ってくれた」
「ホントに?」
「あぁ、本当だ」
「よかったぁ。でもよく許してくれたよね。あんなに怒ってたのに。チョーうける」
「それは――」
「もしかして、圭ちゃん先生の奥さんとヤったの?」
「――――」
「ヤったんだ。圭ちゃん、マナのためなら本当に何でもやってくれるんだ」
「マナを助けるためだ」
「で、どうだった?」
「何がだよ?」
「先生の奥さんてエッチ上手いの?」
「そんなことを知ってどうするんだよ?」
「だって、エッチが上手かったら山崎先生が浮気するなんて思えないもん。やっぱり下手なの?」
「上手かったよ。最高だった」
実はあの夜――俺と詩織さんの間には何もなかった。キスはしたけど、それ以上のことは本当に何もなかった。俺は詩織さんの〝抱いて〟という言葉を聞いて覚悟を決めた。でも〝やめよう〟と言ったのも彼女の方からだった。
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「圭太くん、五十嵐さんはあなたの彼女じゃないわよね?」
「かっ、彼女に決まってるじゃないですか!」
「本当に? 私の女の感って言うのかな、圭太くんと五十嵐さんてスゴイ関係なんだろうなって思うけど、まだ恋人同士ではないような気がするの。2人の距離感って言うのかなぁ――圭太くんは自分の気持ちに気付いていないみたいだし、五十嵐さんは一生を変えてしまうぐらいの人がこんなに近くにいるのに全然気付いていないし――多分当たってると思うけどどう?」
「マナは――俺の彼女です」
「そうよね。ごめんなさい、余計な詮索をして」
「いえ――」
俺がマナの彼氏を演じてるからこそ、詩織さんとの偽装恋愛は成立する。彼氏だから、詩織さんと付き合うことを交換条件にマナを許してもらえる。だからあの時、本当は詩織さんに真実を打ち明けようか迷ったけど――迷った末に俺は嘘を突き通した。
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「ふ~ん、だったら何で先生は浮気なんかしたんだろ? やっぱり若くて可愛い私の方が上だったってことかな?」
「さぁな」
「まぁ、どうでもいいや! 圭ちゃん、今日はコメダ珈琲店で食事して行こ~よ。ダメ?」
「わかった。おごってやるよ」
「やったぁ。圭ちゃん、だ~い好き」
マナにとって、俺がどうやって詩織さんからマナの許しを乞うたのかは興味などなく、助かったという事実だけが重要だった。だから俺がマナのために詩織さんと付き合い、何をしていたかなんて、知ったことではないのだ。
それから数ヵ月後、詩織さんは山崎と離婚が成立した。しかも、山崎の度重なる浮気で苦しめられていたことが裁判で認められて、山崎は多額の慰謝料を詩織さんに支払うこととなった。結果として、離婚という最悪の結末になってしまったけど、詩織さんのこれからの人生を考えると良かったに決まっている。