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『ロウェルの森』にて敵味方の犠牲者を例外無く一ヶ所に集めた魔族達は、マリアに後を引き継ぐ。
だが、獣人の死体はどう考えても少なかった。
「死体が残っていないのもありますね。と言うより半分以上は死体が無い」
「貴女が派手に暴れすぎなのよ、シャーリィ。跡形もないじゃない。本当に勇者の力は厄介ね」
「役立つので重宝していますよ。それに、敵対しない限り私から攻撃することはありません」
その光景を眺めながら二人が言葉を交わす。シャーリィは疲れ果てており、特に足の負担が大きくルイスに背負われている。
「敵味方関係無く祈るのか?」
敵味方関係無い様子を見てルイスがマリアに尋ねる。
「命に貴賤は無いわ。どんな魂でも死後には安らぎを得る権利がある。それに、迷える魂をそのままにしておいたらアンデッドに成るから困るでしょう?」
「成る程ねぇ、確かに困るわ」
「それに、今回は私達にも少なくない犠牲が出てしまった……辛いわ。せめて私が弔ってあげたい」
悲痛な表情を浮かべるマリアに少しだけ視線を向けたシャーリィ。マリアを慕うゴブリン、オークも五十体の死者を出してしまった。
準備が終わるとマリアは杖を地面に突き立て、膝を付いて手を組み静かに祈りを捧げる。
するとゴブリン、オーク、獣人の遺体が光りに包まれ天へと昇っていく。それは幻想的でありながら何処か寂しさを感じさせる光景であった。
後始末と埋葬を終えた一同は、そのまま森を抜けるべく北上を開始。直ぐ様黄昏に戻らねばならないシャーリィ達はマリア達より先に森を出ることとなった。
「少し時間は掛かるけど必ず黄昏の街に立ち寄るから、ちゃんと迎え入れてよね?忘れたら嫌よ」
「記憶の片隅に留めておくことにしますよ、マリア」
最後まで憎まれ口を叩き合った二人は別れ、『ロウェルの森』脱出を目指す。
シャーリィはリナ達エルフが背負い一気に森を抜けることとなった。
「ご迷惑をおかけします」
「いえ、代表は軽いので問題はありませんよ」
「で、俺達は走るんだな」
「仕方ないさ、森の外までランニングと行こう」
幸いマリアが進撃する際に作り出した道が残っていたので、その道を使うことで大幅な時間の短縮を実現。
休憩を挟みつつ夕方には森を抜け、残していた自動車で黄昏の街へ向けて移動する。リナ達は馬を用いて警戒しつつ北上。
快速を活かして一気に『ラドン平原』を突っ切った。幸い道中魔物の襲撃もなかった。
初夏にしては少しばかり肌寒い夜、一南部陣地の激戦跡を見てシャーリィが複雑な表情を浮かべたが、一行は無事に黄昏の街へ到着する。
既にリナ達が信号弾でシャーリィの帰還を伝えていたので、混乱が起きることはなかった。
「よく無事に戻りました」
カテリナが皆を出迎えて労う。そして最後にシャーリィに視線を向けた。
「先ずは無事で何よりでした。ただし、無鉄砲も加減しなさい。心配する私の身にもなってほしいものです」
「今後は善処します」
ルイスに背負われたシャーリィを見て心配そうに声をかけるカテリナに、シャーリィは何処か気まずそうに視線をそらす。
「その言葉が嘘でないことを祈ります。よくやりましたね、シャーリィ」
「はい、シスター。ではルイ、執務室へ運んでください」
「は?何言ってんだ?」
「留守の間の処理をしないと。報告も聞きたいので」
「それは後にしなさい、シャーリィ。ルイス、シャーリィを部屋に叩き込みなさい。貴方も一緒に居るように」
「あいよ」
「シスター」
「休みなさい、シャーリィ。事後処理はセレスティンを中心に行っています。問題はありませんよ」
シャーリィは抗議するが、カテリナの言葉には有無を言わさぬ迫力があった。それはシャーリィを純粋に案じる気持ちも含まれており、それを感じ取ったシャーリィもまた、無下にはできなかった。
「……分かりました、少し休みます。ですが、これだけは先に教えてください。レイミは?」
「レイミも部屋で休んでいますよ。疲労によるものです。数日休めば回復しますよ」
「そうですか……ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますね。ルイ、部屋に」
「おう、後でな」
ルイスがシャーリィを背負ったまま館へ向かう。それを見送り、ベルモンドが口を開く。
「お前らも休んでくれ。お嬢の無茶に付き合わせて悪かったな」
「いえ、楽しかったですよ。リサ達と連絡を取って交代で休息に入りますね」
リナ達も一礼して解散する。
「あの娘の無茶に付き合わせてしまいましたね、ベルモンド」
「馴れたもんさ。流石に魔物や獣人を相手にするとは思わなかったけどな。留守の間変化は?」
「今のところはありませんよ。ただし、うちが出した被害はこれまで以上です。そして、それを隠すことは不可能でしょう」
「やれやれ、お嬢の苦難はまだまだ続きそうだな」
「何もかもを忘れて平穏な暮らしを、とも思うのですが、あの娘はそれを受け入れないでしょう」
「だろうな、お嬢の恨みは深い。下手につつくと俺達にも噛みつくぞ」
「だから対処に困るのです」
付き合いのは長い二人は困ったような笑みを浮かべる。
「まあ、俺はお嬢に救われた身だ。この命が尽きるまで傍に居るつもりさ。危なっかしくてな」
「義理堅いことです。貴方があの『エルダス・ファミリー』の幹部だとは思えませんね」
「おっと、流石に調べてたか」
少しだけ驚くベルモンド。
「シャーリィにも伝えていますよ。抗争の最中は監視する事を提案しましたが、シャーリィには却下されていました」
「信じてくれたって訳か。有り難いことだ。話してくれてありがとな、シスター」
「貴方はシャーリィにとって初めての仲間です。頼りにしているのでしょう。シャーリィの信頼を裏切らないように」
「言われるまでもないさ」
その日シャーリィはルイスと共に一夜を過ごす。そして翌朝。
「面目ねぇ……ほんとすんませんでした……」
館のホールにはボコボコにされて正座させられたルイスが居た。
「いつも言ってますが、加減を知りなさい。思わず殴ってしまったではありませんか」
「ははははっ!やったな、ルイ」
カテリナに説教され、ベルモンドは腹を抱えて笑う。要はハッスルしてしまいシャーリィをダウンさせてしまったのである。
「絞まらないなぁ……」
エーリカが困ったような笑みを浮かべて。
「貴方は怒らないの?執事さん」
「お嬢様が望まれたことならば、咎める理由もありません。折角の機会です。このままお休みになっていただきます」
マナミアに問われたセレスティンは顔色を変えずに返答する。
「ほんっと、すんませんでした……!」
「あははははははっ!シャーリィちゃんも意外と積極的ってことだね!たまには良いじゃないか!」
エレノアは豪快に笑い、ルイスは平謝りを続ける。
そのれは暁に日常が戻ったことを知らせるような、そんな初夏の日の出来事。