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#主人公最強
#ハッピーエンド
海の紅月くらげさん
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『ゲームに勝つコツは、敵がやりたそうなことを徹底的に邪魔することだ。たとえ敵の計画が見えないにしてもね』
昔、クレスが仲間から聞いた言葉だ。
「だとすれば、あれが的だな」
クレスは氷の槍を作り出す。
街頭ビジョンに向けて投げ放とうとしたとき、横からムーに殴りつけられた。
クレスの身体が吹き飛ばされる。
「ああ、すまない。付き合うという約束だったか」
クレスが放つ衝撃波がムーの頭を木っ端微塵に吹き飛ばす。
そのままムーの両手を握り、左右に引きちぎる。
『おーっとクレス選手。容赦ない攻撃! 内心まだキレてる様子です!』
『何なんだあの男……怖ええよぉ』
巨大スクリーンは二つに分割されていた、
上部ではムー視点での戦闘が繰り広げられている。
下部では、実況のリシェルと解説のゲイリーがスタジオで椅子に座っていた。
体を引き裂かれる動画を見て追体験したのか、ゲイリーは震えている。
画面の中にクレスの眼に、青い光が灯る。
「えっと、寄生虫の位置は……ああ、そこか」
コアの位置を特定したクレスが、拳を構える。
バラバラにされた挙句凍らされ、ムーは抵抗する術を失っていた。
トドメを刺すその瞬間、炎の竜巻が空に生じた。
灼熱の渦がうねり、ムーもろともクレスの身体を飲み込んでいく。
続けて飛び込んできた鉄の砲弾がクレスの腹にぶち当たる。体勢を直そうとしたクレスの顎を衝撃波が襲い、アッパーカットを喰らったかのようにのけ反った。
「……これは? 七本槍の異能?」
クレスは平気な顔で、前に向き直る。
「マジか、これでもノーダメ? ヤバいなお前」
クレスの前には、目を丸くした少年がいた。
「……君も死んでないのか、本当に、嫌になる」
拡声器を持った少年――カイルは、相手を挑発するかのように首を傾げている。
その背後に七人の影が並ぶ。
彼らはかつて、クレスを信奉していた七人のヒーローだったものだ。
今、彼らの瞳に生者の光はない。
肌は灰色に乾き、血管には血とは異なる黒い何かが浮かんでいる。
それでも、能力は生前と同じだった。
炎が揺れ、雷が鳴り、竜巻が唸る。
七つの異能がカイルの背後で静かに渦巻いている。
クレスがつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「……君は死者を操る能力だったな。しかし、生前よりも能力の精度が悪い。君がどんな命令をしても、私にダメージは入らないさ」
「それはどうかな?」
カイルが拡声器を構える。
『奴に示せ。お前たちの最期を』
カイルの言葉と同時に、七人のヒーローの動きが止まった。
七つの視線が、ゆっくりとクレスへ向く。
誰も攻撃の所作は取らない。
誰も異能は使っていない。
それでも、クレスの呼吸が止まる。
ある者は、歯を食いしばりながら涙を流していた。
ある者は唇を震わせ、喉の奥でかすれた空気を吐き出していた。
またある者は、まるで小さな子供のように、怯えきった顔をしていた。
助けを求める顔を、していた。
「……やめろ」
七人の目の奥には、絶望以外に、もう一つの感情があった。
彼らはクレスを許さない。
まるで――クレスの罪を訴えるように、恨めし気な視線を送る。
カイルが満足気に笑う。
「うん。見た感じ、大ダメージだ」
クレスがうつむく。
「……君は、卑劣だ……僕には君が理解できない」
「そいつは皮肉だな。俺はお前の最大の理解者なのに」
「……何だって?」
「この七人からお前の話は聞いた。お前の心には、世界で唯一、俺だけが理解できる側面があるのさ」
「……そんなもの、あるはずない」
「あるさ。俺たち二人は、他人の命を犠牲に力を得た者同士、分かり合えるはずなんだ」
カイルが両手を広げて空を仰ぎ、微笑を浮かべた。
「死んだ奴を踏みにじるのは、気分がいいよな?」
クレスはただ、じっとカイルを見つめていた。
焦点は合っている。しかし、その目に光はなく、無限の暗闇が広がっている。
彼の中で、一本の糸が切れる。
大きな表情の変化はない。
ただ静かに、強く噛み締め、血を滴らせる。
彫りの深いその顔から、一筋の涙を流した。
「君には、人の心がないのかッ!?」
クレスが拳を構えた。
カイルもゾンビに合図し、異能を使わせ襲い掛かる。
「お前にはありそうだよ、可哀そうにッ!」
【街頭ビジョン、あるいはゾンビたちのスマホ画面】
『さあ! カイル選手の煽りスキルが火を噴いた! フィジカル面では勝ち目がない分、クレス選手のメンタルブレイクを狙いに来ている! 薄々思ってたけどやっぱあの人性格最悪だぁっ!』
『……いやこれ単に怒らせただけだって……あのヒーローの顔、怖すぎる』
ゲイリーが身震いする。
その所作を追うように、スマホやタブレット、街頭ビジョンを見つめるゾンビたちも震えた。ゲイリーの恐怖はデバイスを通じ、王都全域に伝播する。
かつては平和の代名詞であったクレス=ウォーカーは今、皮肉にも、王都のゾンビたちにとって恐怖の象徴と化していた。
ゾンビ十五万人の恐怖心――彼らの畏れが、今、クレスの色に統一される。