そんな淡い願いを胸に、俺は主に背を向けた。
炎露の方が一足先に飛び出した。その後を追うように俺も兄さんの部屋へ駆け寄る。
最悪の事態を想像しては、血の気が引いた。
息が浅くなり、どんどん荒くなってゆく。
冷や汗が頬を伝って床に落ちた。
心臓の音が頭に響く。
俺の前を走る炎露の息も荒かった。
一足先に、炎露がドアを勢いよく開けて部屋に飛び込む。
「無事か?!」
少し遅れて俺も兄さんの部屋に入った。
目の前には、悲哀を帯びた笑みを浮かべた兄さんが居る。部屋の入り口に息が上がってる炎露は、大きく肩で息をしていた。
「良かった」
炎露は安心したのだろう。その場で脱力して、座り込んでしまった。
だが、俺は安心できなかった。
兄さんの笑みの中に、死への覚悟と、受容が見えたからだ。
兄さんは、もうすぐに死ぬ事を知っているのか……?
「2人とも大袈裟だな。ほら、炎露手を掴め」
兄さんは、温かで悲しい笑みを浮かべた。
炎露が、兄さんの手をつかんだ瞬間だった。
まるで氷で兄さんを包むように。兄さんの指先から、兄さんが氷像になってゆく。
炎露は苦しそうに胸を押さえていた。
炎露は見ていないようだが、兄さんが口をパクパク動かしている。
何故、口パク?
そんな事を考えながらも、兄さんが何を言っているのか、必死に読む。
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