テラーノベル
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夕暮れから雨が降っていた。港町の空は分厚い雲に覆われてしまい、山の稜線は霞に溶けて見えなくなる。しとしとと絶え間なく降る雨粒はアスファルトを濡らし、木の枝に集まっては静かに滴り落ちてゆく。
空気が一段と重く感じる屋外では、ひとつの傘を差した学ランを身に纏った少年はなんとも憂鬱そうな表情で天気を眺めていた。冷たい空気と共に溜息をつき、額に手を添える。
「今日はついてないな⋯」
誰の耳にも届くことのない独り言を呟いた少年は、手を下ろして渋々と言うような形で歩を進め始めていた。少年と同じように傘を差した人が右往左往と行き交う中、少年の視界の隅には何やらカフェの看板が薄らと映り出した
普段ならば絶対に行くことのないようなカフェ。だが、今日はなぜだか行きたいと思ってしまう気分。足を止め、少年は言葉を発することなく悩みに悩んだ末入店することを決めた少年は看板のある場所へ進む。
目的地に辿り着いた少年は傘を閉じて、黒目を動かしただ内容を見つめていたが首を左右に振って入店を決める
恐る恐ると内部へ入ってみたところ、先ほどの冷たい空気から全体的に暖かいとも言える空気や雰囲気がふわりと彼を包み込むように迎える
そして、同時に
「いらっしゃいませ、なの!」
随分と陽気な声色が店内に響き渡る。だが姿は見つけられずに、少年は困惑した様子で見渡していたところふと下の方へ視線を向けた
そこには、少年よりも随分と背が低く見えるチョコレート色に染まった三つ編みの少女が出迎えるかのような様子でじっと少年を見つめている
少年は一瞬の間、硬直して見つめ合うような形でいたが我に返ったのか瞬きを数回ほど繰り返す行為をした後僅かに震える口を開いて
「⋯えっと」
「キミのご両親は?」
開幕早々の一言がそれかと思われるだろうが、少女はそれほどに幼く見える。そんな問いをされた彼女は若干拗ねた様子で両頬を膨らまし、眉をひそめて
「失礼なの!私は立派な高校生なの!」
鼻を鳴らして、腰に両手を添えて怒りを覚えた様子の彼女。少年はだいぶ焦った様子で、両手を上下に揺らして
「え」
「あ」
「ごめんなさい」
素直に謝罪をしたところ、聞いた彼女は先ほどの様子から元々の陽気な姿へ切り替わって
「許すなの!」
そう言って、彼女は少年を席に案内をする
「ご注文はどうしますなの?」
小首を傾げて問う彼女に、どこか落ち着かない様子で店内を見渡したあと息を吸い込んで吐き出し
「あ、じゃあ」
「カフェラテで」
と注文をする。聞き入れた彼女は微笑んだあと厨房へ足を運んでいった。
少年はこのような暖かい雰囲気にはあまり慣れていないのか、膝に当てていた手を動かして膝をこするようにしたりなんなりしていた
静寂な空間が続いていたところ、完成したのか先ほどの少女はお盆に載せたカップを落とさないように慎重な様子で持ってきては
「お待たせしましたなの!」
テーブルに手に取ったカップを置く動作を彼女はする。少年は律儀にも頭を少し下げたあと、置かれたカップを持つと共にカフェラテを1口だけ喉に流し込んだ
「普通に美味しいな」
小さな声量で呟いた言葉はどこか暖かな空気に溶け込み、再びカップをテーブルに置いてほっと息をつく。
そうして、言葉は無くとも穏やかな時間がいつの間にか流れた
気づくと雨は止み、つい1時間ほど前にあった天気などが無かったことにされている。カップの内側に満たされていた飲み物はいつの間にか空になり、少年は鞄と傘を手に取って立ち上がり
会計を済ませようと向かう。レジの方にいたのは少女。
背伸びした少女は彼に気づくと会計を手早く進めていたが、不意に何を思ったのか彼女は少年に言う
「また、来てくれると嬉しいなの!」
向日葵のような、暖かな笑みに彼はほんの一瞬だけ薄らと頬を赤く染めた。口角を小さく上げ、言葉はあえて返さずに口を閉ざして首を縦に振る
会計を済ませ、店内を出た外は橙色に染まり美しく陽が落ちていたのであった。
コメント
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おおお。