「山崎先生が、どんな人間かわかってもらえたかしら?」
「もしかして木元先輩は山崎と?」
「えぇ――3年の夏休みから予備校に通い始めると、間もなくして山崎先生に誘われたの。そして気付いたら付き合うようになってた」
「奥さんがいるのは知らなかったんですか?」
「付き合い始めて3ヵ月くらい経ってから聞かされたの。でも私を1番愛してる。いずれ妻と別れるから待っていてくれと言われたの」
「そんな話、信じたんですか?」
「信じるしかなかった。好きだったんだから仕方なかったの」
木元先輩は目に涙をめて、訴えかけるように俺を見ていた。
「でも結局、山崎はあなたを、もて遊んでた」
「そういうことね。後で気付いたんだけど、私は山崎先生に自分の都合のいいようにマインドコントロールされていたの。あの人以外に考えられなくさせられてた。詐欺師みたいな男よ」
「アイツは高校生にそこまでするんですか?」
山崎を知れば知るほど、不安が脳裏をよぎった。
「するわ。自分のものにするためだったら容赦はしない。それに山崎先生は女性の扱いが本当に上手いの。普通の女子高生では間違いなく、口説かれて落とされてしまうわ。たぶん五十嵐さんも先生に――」
「――――」
「早く気付かせてあげないと後戻り出来なくなっちゃうわ。お願い、私と同じ思いを五十嵐さんにさせないで!」
木元先輩はテーブルの向かいに座る俺の手を握ってそう言った。目からは涙が溢れ出していた。余程ツラい思いをしたのが、痛いほどわかった。
「わかりました」
確かに予備校が終わった後にマナが山崎と2人切りで会っていたなら木元先輩の言う通りかもしれない。でも、マナと山崎が一緒にいるのを見たのは、ガリベンと元生徒会長の神崎先輩だけだ。100%そうだとは言い切れない。
それから話が終わった俺らは店を出ると、ガリベンは木元先輩の車で、俺は歩いて帰った。色んな思いが交差して、何となく真っ直ぐ家に帰りたくなかった。もと来た道をブラブラしながら歩いていると、いつの間にか予備校の前までやって来ていた。すると予備校の裏口から人が出てくるのが見えた。何故か俺は慌てて物陰に隠れて、様子を伺っていた。俺の中で、もしかしたらという思いがあったのかもしれない。すると楽しそうに笑いながら話している男女の声が聞こえてきた。
その直後、暗い路地の中から姿を現したのは山崎とマナだった。そうであって欲しくないと願っていたけど、どこかで疑惑を拭い切れないでいる自分がいた。
「マナ―――」
俺は壁に寄りかかりると、背中を壁にこすり合わせながらズルズルとその場にしゃがみ込んだ。何なんだこの気持ち――。イライラするし、胸くそ悪い。しばらくの間、俺の中で今までに味わったことのない感情が沸き起こり、どうにも抑えられないでいた。追いかけて2人が何処に行くのか見届けなければならなかったけど、体が言うことを聞かなかった。
その日を境に俺は、これ以上マナを詮索するのを止めた。マナがいけないことをしているのはわかっていたけど、マナを説得して止めさせたりはしなかった。