目が覚めると知らない部屋にいた。手足は縄で縛られ口には布を詰め込まれ、床に乱暴に転がされている。誰にやられた?またギャングのイタズラか?にしては凝りすぎている。つぼ浦と出かけていたはずなのにどうしてこんな事に…つぼ浦は無事なのか?冷静になって脱出する方法を考えているとマスクを被った男数人が入って来た。
「〜〜〜?〜〜〜〜。」
「~~~~~~。」
ぼそぼそと喋っていて聞き取れないが直感で分かった、この街の住民ではないと。そして急に数人に繰り返し殴られ、蹴られ。何故自分がこんな目に合っているのか分からなかった。いっその事さっさと殺してくれ、そのほうが楽だと思えた。しかしそんな思いとは裏腹に、じわじわと時間をかけていたぶられる。数十分もやられていると呼吸がままならなくなりボーッとしてくるが、頭の中は嫌に冷静で、あぁ俺ここで死ぬのかなと悟った。思い出すのは街の皆、警察署員達、そしてつぼ浦。最期つぼ浦に一目会いたかった、ごめんと意識を手放そうとした瞬間。バァン!と勢い良く扉が開き、声が聞こえた。
「アオセン!!!」
その声にハッとなり再び目を開ける。ぼんやりとした視界に映ったのは無言でバットを振り回し立ち向かう男。鈍い音が鳴り響いていた。
「ハッハァッハァ……ごめん遅くなった。」
音が鳴り止んだと思ったら近くで声がした。聞き慣れた声に安心したらフッと意識が途切れる。
「アオセンうっす、今日は調子どーだ?」
青井はあの後病院に運び込まれ処置を受けた。医療技術が優れているこの街では怪我はもう完治しているはずなのに、意識だけが戻らず10日が経っている。つぼ浦は毎日病院に通って握り返してくれと願いながら手を握り、眠っている青井に話しかける。
「昨日キャップがロケランでやらかしちまって大変だったんだぜ、俺まで共犯切られそうになったし。そういえばカニメイト新商品出たんだぜ!早く食べに行きてーな!」
救急隊員達は病室の前を通りがかると漏れてくる1人だけの声に今日も心を痛ませる。
「…あ、もう時間だ。じゃあまた後で!いっぱい寝て大きくなれよ!」
出勤する前の30分と退勤した後の1時間、病院に通うと決めている。病室に入る前に深呼吸をしてから気持ちを切り替えて、必死に明るく振る舞わないと涙が溢れてくるのを止められなかった。
「『つぼ浦フリーカ向かいます。』」
「『飛行場ライオット出しまーす。』」
「『店舗強盗向かいます。』」
常に動いていないと、何かをしていないと最悪の事態が頭をよぎってしまう。寝てる間にもアオセンに何かあったら…とずっと睡眠も碌に取れていない。
「おーいつぼ浦何やってんだー!」
ぺいんが道路でグルグル回るベージュのパトカーを見つけた。声をかけたが反応が無い。
「つぼ浦無視すんなー!止まれー!!…えっつぼ浦!?」
運転席を覗いてみると意識を失っているように見えた。無理やりパトカーをぶつけて止め、つぼ浦の元に駆け寄る。
「つぼ浦!?どうした!?」
「…ん、あれイトセン?どうしたんすか?」
「どうしたって、つぼ浦気絶?してたんだよ?」
「え?いやんな訳ないじゃないすか。そうだ、店舗強盗向かってるんだった。」
「いやもう休みなよ。お前やつれてるし顔色悪いし、無理しすぎだって。」
「大丈夫すよ、もう行かなきゃ。」
「…つぼ浦さ、らだおが心配なのは分かるよ。でもらだおが起きた時につぼ浦が元気無かったら悲しむよ?」
「……無理なんすよ、動いてなきゃ。何かしてなきゃアオセンの事で頭いっぱいになっちまうし、この瞬間にも何かあったらって…そう考えると涙出てきちまうし…」
「泣いたって良いじゃん、1回泣いたらスッキリするかもよ?」
「いや、今1番辛いのはアオセンなのに、俺が泣いちまったら申し訳が立たねぇ…」
目を真っ赤にさせながら言った。身体も心もボロボロにすり減ったつぼ浦を見てぺいんのほうが泣きそうだ。
「…そっか、無責任なこと言ってごめん。でも今日だけはもう休みな。」
「…分かったっす。」
「よしじゃあ家まで送るよ。…いや、1回病院で診てもらおう。乗って。」
「え、いや家で良いすよ。ピン刺しますね。」
「いやダメ、上官命令だぞ。」
「…都合の良い時だけ…」
「何か言った?」
「いやなんも?」
いつもの調子のつぼ浦が垣間見れて少し安心した。
診察室に入ると医局長と神崎がいた。神崎は勘弁してくれ…と思ったが今は噛み付く元気も出なかった。
「酷い寝不足と栄養失調だ、相当無理しただろ。点滴しながら様子見て数日入院してもらう。」
「え、マジかよ。別に平気だぜ?」
「平気じゃないからこの診断結果が出てるんだ。毎日通ってるのに気付けなかった我々の落ち度でもあるし、しっかり元気になって貰わないとな。」
「心配しなくても俺が毎日世話してやるぜ、つぼ浦。」
「せっかくだしらだお君と一緒の部屋にしよう。広い部屋に移ってもらうよ。」
「いやそこまでしなくて良いすよ。」
「これも君達の治療の一環だ。」
同じ部屋に移動し青井に話しかけていると点滴の効果か、すぐに眠くなってくる。青井が隣にいる事で少しばかり安心感を覚えたつぼ浦は素直に、久方ぶりに深い眠りに落ちた。
コメント
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うわ、まって泣く、、 つぼ浦もらだおも、心が痛いな でもこういう話ホント好きです!!