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第53話 「受け継ぐもの」
2021年10月。
秋季福岡大会決勝。
柳城高校 ― 九州第一高校。
夏の準決勝以来の再戦だった。
結果だけ言えば。
柳城高校が4対3で勝利した。
九州第一も最後まで粘った。
だが新主将・佐伯を中心にした柳城が逃げ切った。
福岡大会優勝。
新チーム最初のタイトルだった。
試合後。
選手たちは喜ぶ。
しかし。
夏の甲子園出場を決めた時ほどではない。
みんな次を見ていた。
九州大会。
そしてセンバツ。
福間監督も珍しく笑った。
「少しは柳城らしくなってきたな」
選手たちの表情が明るくなる。
監督に褒められることは滅多にない。
その日の夜。
おっちゃんの店。
優勝祝いが開かれていた。
「福岡一、おめでとう!」
おばちゃんが拍手する。
選手たちも照れながら頭を下げた。
店の壁には新しい新聞記事。
『柳城、秋の福岡王者』
その記事を見ながら、おっちゃんが言う。
「強くなったなあ」
福間監督は首を振る。
「まだまだです」
だがその顔は少し誇らしそうだった。
数日後。
学校。
放課後。
史陽が部室を掃除している。
古いロッカーの奥。
一冊のノートを見つける。
野球ノートだった。
表紙には名前。
『小早川 啓介』
史陽は驚く。
兄の名前だった。
中を開く。
打撃の反省。
配球の考察。
試合後の振り返り。
細かい字でびっしり書かれている。
最後のページ。
短い言葉だけが残っていた。
『才能より継続』
史陽はしばらくそのページを見つめる。
帰宅後。
塁に見せる。
塁も黙る。
兄は家で野球の話をあまりしなかった。
だから知らなかった。
あれほど努力していたことを。
「すごいな」
塁が呟く。
史陽も頷く。
「うん」
その夜。
二人はいつもより遅くまで素振りを続けた。
誰に言われたわけでもない。
ただ。
兄が歩いた道を少しだけ見た気がした。
そして11月。
柳城高校は九州大会へ向かう。
センバツ出場を懸けた戦い。
新チーム最初の大舞台だった。
第53話 終
#高校生
コメント
1件
天海カオルさん、第53話読了しました。 決勝戦の勝利——それも4対3の接戦を制したからこそ、選手たちが「次」を見ている感じがすごく伝わってきました。福間監督が「少しは柳城らしくなってきたな」って言うシーン、めちゃくちゃグッときましたね…!あの監督に褒められることがどれだけ特別か、これまでの話を知ってるからこそじわっと来ます。 そして史陽が見つけたお兄さんのノート。「才能より継続」という言葉と、それを見た後に兄弟が黙って素振りをする夜の静けさが、ものすごく胸に残りました。言葉にしない想いがにじんでいる描写が、本当に天海さんらしいなあと…!