テラーノベル
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可愛いものが好きやった。物心ついた時からずっと。別に女の子になりたいわけやない。ただ、可愛い女の子の持つふわふわのクマのぬいぐるみも、キラキラしたアクセサリーも、ピンクのレースがあしらわれたバッグも、全部が好きやった。
親の転勤に合わせて関東の高校へ進学することになった。小さい頃から誰にでも好かれる「人気者」やった俺に、不安なんてなかった。どこにいたって、どんな言葉を使ったって、俺が喋れば周りはみんな笑顔になる。そう確信していた。
……彼に出会うまでは。
「うっ……かわい」
入学式の少し前。初めてのクラスに勢いよく足を踏み入れた途端、彼と目が合った。
男に対してこんな感情を抱くなんて初めてやった。一瞬で、心臓を鷲掴みにされたように惹きこまれ、自分の机を探すよりも早く、反射的に彼の机に両手をついていた。
「俺、神崎しゅうとって言うねん!君、名前なんていうん?」
「……ふっ、ふふっ」
「……え?」
俺の勢いに、彼は一度目を見開いてから、急に口元を抑えて笑い出した。
俺、なんか変なこと言うたか? いや、初対面でいきなりクラスの中心に乗り込んでいくような振る舞いが、おかしかったんか。
「……ふっ、ふふっ。ごめん、関西の人? 生で聞くの初めてで。関西弁って……ふふっ、面白いね。かぁわいい」
「……え?」
何がそんなにツボに入ったのか、彼は笑い続けている。その響きは、いかにも俺を小馬鹿にしたような言い回しやった。周りの連中もニヤニヤとこちらを見ている。
そうか、俺が普通やと思っていた言葉は、こっちの奴らには「異物」なんや。人に笑いものにされて、こんなに恥ずかしかったのは初めてや。
……なんやねん、馬鹿にしやがって。
ここは、俺の知らないアウェイなんや。テレビでもラジオでも普通に溢れているはずの関西弁が、ここではこんなにも浮いてしまうやなんて。
顔が熱い。もう、このクラスで誰とも喋りたくない。先生にだって、何も言いたくない。
必死に自分の名前が書かれた机を探し出し、ヘッドホンを耳に押し当てて、強く目を瞑った。
♢♢♢
「しゅうとぉ、ねぇ、しゅうちゃあん!」
「うおっ……え、あ。どうしたの? りゅうせいくん」
「……はぁ? きもちわる。どうしたの? だってさ。聞いた? いつきくん」
俺から奪い取ったヘッドホンを手に持って、りゅうせいくんが目の前でケラケラと大きく口を開けて笑っている。
「……珍しいね、しゅうと。怖い夢でも見たの? なんか顔赤いよ」
いつきくんの、大きくて少し冷たい手が俺の頬に触れる。
その温度を感じて、俺はハッと息を吐いた。
そうや。ここはもう、あの苦しかった場所じゃない。俺が大切にされて、俺らしくいられる、俺の居場所なんや。
「……ううん。そんな夢見てへんよ。いつきくんとデートする、幸せな夢見てただけやわ」
俺は、もう二度とあの日の傷には戻らない。
そう自分に言い聞かせるように、彼の名前を呼んだ。
「あほか、しゅうちゃん。いつきくんはもういっちゃんのもんやろ?」
「りゅうせいくんの関西弁のイントネーション、きもちわるっ!!」
「なんで? もう、『おちゃのこさいさい』やで?」
「え、おちゃのこさいさいってなんですか? ぶんぶく茶釜みたいなもんですか?」
「……え、二人ともなんの話してんの?」
ふふっ、と上品に口角を上げ、おまんじゅうみたいな可愛い笑顔でいつきくんが笑いかけてくる。
なんか久々やな、こういうの。いつきくん、あのきつね顔の可愛げのない男とずっと一緒やったから。
「それよりいつきくん、今度の日曜日空いてる? 俺、いつきくんとずっと行きたい場所があって……」
「え! 俺っちもそこ行きたかった!」
「いや、まだ場所言うてへんし」
「……日曜日……は」
言い淀むないつきくん。その表情だけで、答えは明白や。
「……はぁ。どうせあいつでしょ。いつからやろ、いつきくんが、あの優しかったいつきくんが友達を蔑ろにするようになったんは」
少し大袈裟にため息をついて、いつきくんを見つめる。
はぁ、かわい。お目目をキョロキョロさせて、どうしようか迷ってる。一生このまま、俺の視線で困らせておきたい。
「……でも、しゅうとだってそうでしょ? 最近、俺らよりゆうたといる方が多いじゃん」
「それはいつきくんが俺をほったらかしにするからやろ。今まで俺がどれだけ愛を伝えてきたか、忘れてもうたんやろ?」
「……それは、ちゃんと覚えてるけど」
ふふ、と優しく笑われて、冗談のつもりが、急に照れ臭さが込み上げてきた。
なんや。ちゃんと伝わってたんや。……なら、もう許したるけど。
「……ねぇ、ちょっと。しゅうちゃん、俺のこと見えてた? 俺も友達だよね?」
「……まあ、おまけ程度には」
「ふふっ、珍しいよね。りゅうせいのことをこんな風に扱うのは、しゅうとくらいだよ」
「そうだよぉ! みんな俺っちのことキラキラした目で見つめてくんのに、その死んだ魚みたいな目はなに? 俺、ゴミに見えてる!?」
「……ゴミには見えてへんけど、邪魔やなとは思ってる」
「ふふっ、しゅうと、辛辣」
いつきくんに笑顔で頭を撫でられ、喜んだのも束の間。
教室に入ってきたあの「狐面」の男の元へ、いつきくんは吸い寄せられるように走っていってしまった。
あーあ、うまいこと逸らされた。
りゅうせいくんもショックなフリをしてるけど、どうせあの「ともや」とかいう赤ちゃんヤクザのところへ行くんやろ?
「なぁなぁなぁなぁ!」
「うわっ、うっさいのが来た」
「なぁ、なんの話してんの?」
「出たよ、うぜーエセ関西弁。マジでうるせぇから、こっちくんなよ」
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ライラ からぴち・シクフォニ♡
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