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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第43話 〚理由のない不安が胸を締めつける回〛
――澪視点――
理由は、なかった。
本当に、
何も起きていない。
朝も普通。
教室も普通。
みんなの声も、いつも通り。
なのに。
(……息、しづらい)
胸の奥が、
ぎゅっと縮む感じがした。
「澪、大丈夫?」
えまの声。
「え? あ、うん」
笑ったつもりだった。
ちゃんと、いつも通りに。
でも、
心臓だけがついてきていなかった。
——ドクン。
——ドクン。
少し早い。
(なんで?)
原因が、見当たらない。
修学旅行の話も、
担当も、
部屋割りも。
全部もう決まっている。
不安になる要素なんて、
どこにもないはずだった。
……なのに。
廊下を歩いている時。
ふと、
背中が冷えた。
誰かに見られている、
……そんな気がした。
振り返る。
誰もいない。
(気のせい、だよね)
自分に言い聞かせて、
前を向く。
でも、
足が少しだけ速くなっていた。
放課後。
みんなで話しているときは、
その不安は薄れる。
笑って、
湊がボケて、
みんながつぼって。
(あ、平気かも)
そう思った瞬間。
——視界の端。
一瞬だけ、
人影が動いた気がした。
(……っ)
心臓が跳ねる。
確認しようとして、
やめた。
(……見なかったことにしよ)
理由のない不安は、
名前をつけた瞬間、
大きくなってしまう気がしたから。
でも。
海翔の視線が、
今日はやけに近かった。
「澪」
「なに?」
「……一人で行動する時、
誰かに言ってからにして」
その言い方が、
少しだけ、硬い。
「どうしたの?」
聞き返すと、
海翔は一瞬、言葉に詰まった。
「……なんでもない」
なんでもない、
じゃない。
その空気だけで、
分かってしまう。
(……やっぱり、何かある)
でも、
聞くのが怖かった。
聞いたら、
この不安に“形”ができてしまいそうで。
夜。
布団に入って、
天井を見つめる。
静かな部屋。
なのに、
心臓の音だけがうるさい。
(……大丈夫)
(私は、守られてる)
そう思うのに。
なぜか、
涙がにじんだ。
怖い理由は、分からない。
でも——
(戻りたくない)
前みたいに、
何も言えずに、
気づかないふりをしていた自分には。
そのことだけは、
はっきりしていた。
胸を押さえて、
ゆっくり息をする。
(……誰かに、
ちゃんと話した方がいいのかな)
不安は、
まだ名前を持たないまま。
ただ、
澪の胸を締めつけ続けていた。