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孤独

14 - 第14話

2025年07月01日

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陽斗が夜勤のバイトに出ている夜。スンホは一人で、寝付けなくて近所のコンビニに行った。


カップ麺と水を買って外に出ると、路地の先にタバコの火が浮かんでいるのが見えた。


(気のせいか……?)


振り返ろうとした瞬間、後ろから声がした。


「おい、イ・スンホ」


冷たい声。

振り返ると、そこには以前に見た顔――逃げたはずの男が、笑って立っていた。


「元気そうじゃん。ここまで逃げて……いい身分だな?」


スンホは息をのんだ。足がすくんだ。


「……もう、俺には関係ない」


「お前、まだ2億ウォン残ってんだよな? 俺らにもシェアしてくれよ。なあ?」


男はスンホの肩を掴んだ。


「やめろ……!」


「またちょっとだけ、手伝えよ。簡単な仕事だ。お前ならできる」


肩の指が食い込む。

逃げたはずの泥が、また足首を捕まえに来る感覚――


スンホは声にならない息を吐いた。


(……陽斗……助けて)


頭に浮かんだのはあの笑顔だった。


男は携帯をスンホのポケットに無理やり突っ込んだ。


「これに連絡しろ。な? 逃げんなよ。次は陽斗とかいう奴に何が起こるか……わかるよな?」


男はにやりと笑って、タバコを地面に押し付けて火を消した。


スンホは無言でアパートに戻った。

静かな部屋には、陽斗の脱ぎ捨てたパーカーと、ぬるくなった麦茶だけが残っていた。


カップ麺を台所に置き、震える手でポケットの携帯を取り出す。


(どうする……どうすれば……)


電話帳に陽斗の番号が入っている。


だが、指がそこに触れたまま動かない。


陽斗に知られたらどうなる?

嫌われるかもしれない。

見捨てられるかもしれない。


頭が真っ白になった。


スンホは携帯をテーブルに置いて、両手で顔を覆った。


「……大丈夫、大丈夫……俺1人で……なんとかする……」


小さくつぶやいても、心臓の鼓動は速くなるばかりだった。


(陽斗には、関係ない。巻き込めない。絶対に――)


スンホは何度も深呼吸して、無理やり息を整えた。

震える手でさっき押し込まれた携帯を開く。


新着メッセージがひとつだけ届いていた。


【逃げんなよ】


スンホは、陽斗の寝顔を思い浮かべた。

一瞬だけ、何かを言おうとした自分を責めた。


そして小さく笑った。


「……俺が終わらせるから……」


部屋の中で、一人きりの声が虚しく響いた。


深夜の河川敷。

冷たい川風に、スンホのフードが揺れていた。


ポケットの中には、あの携帯と、今の自分にできる精一杯の現金。


(これで終わる。全部渡せば……終わる……)


見慣れないワゴン車が止まった。

運転席から、あの男――追ってきた一人が顔を覗かせる。


「よぉ、スンホ。来たんだな」


スンホは小さく頷き、ポケットの封筒を差し出した。


「……これで……これで全部だ。もう俺に構わないでくれ」


男は封筒を受け取り、中身をちらりと確認すると、ふっと笑った。


「……お前、本当にバカだな」


「……え?」


スンホの言葉が終わる前に、背後から誰かに腕を掴まれた。


ぐっと捻られて、思わず膝をつく。


「っ……やめ――っ!」


男がスンホの耳元で笑う。


「誰がこれで終わりって言った? お前が金持ってくるって、便利じゃん。まだ働けよ。死ぬまで。」


スンホのポケットから、封筒以外の財布や携帯も奪われていく。


(終わらない……)


足元の砂利に涙が落ちた。


(俺は……俺は何してんだ……)


ワゴンのドアが開く音がした。


「おい、乗れよ。次の“仕事”、ちゃんと教えてやるからな」


終わらせるはずが、

さらに深く、夜の底へ引きずり込まれていく。


スンホは何も言えないまま、腕を引かれて暗い車内に押し込まれた。

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