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まずはグランベル公爵のお兄さん、ファーディナンドさんがシェリルさんの部屋に入っていった。
私の来訪は突然のことだから、経緯を先に説明してくれるとのことだ。
しかし、ファーディナンドさんは1分もすると部屋から出てきてしまった。
「――それではアイナさん、どうぞ」
「え? あの、説明は上手くして頂けましたか?」
「大丈夫、いつもこんな感じだから」
「えぇー……?」
「さぁ、どうぞどうぞ」
ファーディナンドさんのやや強引な案内で、私はシェリルさんの部屋に入ることになった。
部屋に入ってみると、やはりその部屋は広かった。
大人数で会議をしても、余裕で使えそうな……そんな広さ。
中はきちんと整理されて、清潔に保たれているようだった。
壁には少し変わった模様が刻まれているけど、これは装飾の一種なのだろうか。
さて、一見すると好待遇で住まわせてもらっている感じはするんだけど――
「――よう。
俺に何か用なんだって?」
部屋の中心にある席に着いていた、一人の少女が私に声を掛けてきた。
少女らしからぬ言葉遣いに少し戸惑いはしたものの、まぁこんな人もいるかと理解を示す。
その少女はとても可愛い風貌をしていたが、どこかやさぐれているというか、中身が伴っていないというか、そんな印象を受けた。
「初めまして、私はアイナ・バートランド・クリスティアです」
「ふーん? で、何の用?」
……おっと、名乗りを返してくれない。
私に対して、何の興味も示していないということだろうか。
そういえばテレーゼさんの話によると、シェリルさんって二重人格なんだよね。
私もまだ信じ切れていないんだけど――
……確か『大人しい方がシェリルちゃん、元気な方がヴィオラちゃん』だったっけ?
目の前のこの子は、さすがに『大人しい方』ではないだろうから――
「今日はあなたとお話をしたくて来たんです。
えぇっと、あなたは……ヴィオラさん?」
「うぇっ!?」
「えっ!?」
突然の反応に、私も驚く。
「お前、何者だ?」
……そこからですか。
「名前は先ほど言った通りですが、私はテレーゼさんとバーバラさんのお友達なんです。
ヴィオラさんたちのことを聞いて、お話をさせて頂きたいなって――」
「……何だお前! 怪しいぞ! 消えちまえっ!!」
「え、えぇっ!?」
少女は勢いよく立ち上がり、手で印を組み、凄まじい速さで詠唱を開始した。
それと同時に、彼女の手が輝き、床が揺れ、部屋の中に風が吹き荒れる。
「――全部消し飛べッ!! テンペスト・シルフィードッ!!!!」
ちょ、ちょ――――――――――っ!!?
詠唱が完了した瞬間、突然部屋の壁が光り始めた。
咄嗟にそれを見てみれば、壁に刻まれていた『少し変わった模様』が魔法陣のように、図形を描き出している。
そしてその光と反比例するように、少女の手に生まれた輝きは徐々に明るさを失っていた。
――結果、私の被害はゼロ。
部屋の中のものが散らばっただけで、特に何が起こることもなかった。
「……あ、あの?」
「へへっ、驚かせてごめんな! この部屋、盗聴されてるからさ」
「えっ、盗聴ですか!?」
「おう! 大掛かりな魔法機構で作られてるんだけどさ、魔力の供給元が、俺の魔法を封じる術と同じところにあるんだよ。
だからそっちの術を発動させて、盗聴の方を発動させなくしたんだ」
「えーっと、つまり? ……今は大丈夫なんですか?」
「30分くらいは大丈夫だぞ! ついでに扉もロックされて、誰も入ってこないからな。
……っていうか、敬語はウザいからタメぐちで話してくんない?」
む……初対面で敬語禁止とは。私的にはなかなかやりづらいぞ。
「わ、分かった。……それで、あなたはヴィオラさん?」
「そうそう! そう呼ばれたのも久し振りだなー。
テレーゼとバーバラは元気にやってる?」
「うん、元気も元気だよ。特にテレーゼさんは」
「はははっ、そうだろうな。あいつら、今は何をやってるんだ?」
「テレーゼさんは錬金術師ギルドの受付嬢。
バーバラさんはそこの食堂で働きながら、服屋さんでも働いてるよ」
「ぶはっ!? テレーゼが受付嬢!? 何でだよーっ!?」
先ほどまでとは打って変わり、ヴィオラさんは目を輝かせながら私の話に聞き入った。
バーバラさんの話は予想通りだったのか、テレーゼさんの話ばかりに興味がいくようだ。
ひとまずそこら辺は簡単に、テレーゼさんから聞いていた話をそのまますることにした。
錬金術師を目指していたけど途中で断念して、錬金術師ギルドの職員として働いていることを――
「……と言うわけで、私はそこでテレーゼさんと知り合ったの。
そのあと、服屋さんを探しているときにバーバラさんを紹介されて」
「そっか、お前は錬金術師なんだな。
今日はハルムートのやつに呼ばれてきたのか?」
「呼ばれてというか、こっちから接触したんだけどね。
ヴィオラさんたちに会いたくて」
「俺たちに? シェリルにだろ、どうせ」
「うーん? 私は二人に会いたかったけど……」
確かに今まで、呼び方こそ『シェリルさん』と言っていたけど、どちらがどう、ということを私は知らなかったわけで。
『どちらかしか会えない』と言われても、『どちらが良い』という判断基準が無かったのだ。
「……ふぅん? そんなやつ、初めてだなぁ」
「今までは違ったの?」
「おう。そもそも王城に召し抱えられることになったのは、シェリルの才能が理由だからな。
俺は単に、魔法を使う力が強いだけだったし」
「そういう違いがあるんだ? へぇ~……」
「お前、何も知らないんだな。
それなのに、よくもまぁこんなところまで会いに来てくれたもんだ……」
ヴィオラさんは少し呆れながら、そんなことを言った。
「でも、これでテレーゼさんたちには無事を伝えられるよ。心配していたからね」
「もう忘れられていたかと思ったけど……そっか、そっか」
そう言いながら、ヴィオラさんはくるっと後ろを振り向いた。
その声は少し涙声にも聞こえる。彼女も今まで、我慢してきたことがあるのだろう。
「……ところでヴィオラさんは、何でここにいるの?」
「んん? 聞いてるかもだけど、召し抱えられたあとに仕事をまったくしなくてさ。
シェリルが拒絶しちゃって」
「拒絶って……、嫌なことでもあったの?」
「軍の連中からの依頼が多くてなぁ。俺が言うのもアレだけど、ずいぶん非道な依頼がきてたんだよ。
それで心を閉ざしちまって……そのままここに軟禁、ってわけ」
「軍の依頼……?
私は『魔法の天才』としか聞いていないんだけど、どういうこと……?」
「ああ。シェリルは魔法を作る才能があるんだ。
シェリルは魔法を作る、俺は魔法を使う……そんな感じで、俺たちは才能が分かれちまってるのさ」
魔法を作る才能……。
それって――
「……創造才覚?」
「うぇっ!?」
つい漏らしたその言葉に、ヴィオラさんは凄まじい勢いで反応をした。
創造才覚、それはユニークスキルの名前の一部。
ユニークスキルとは、世界で一人だけが持つことを許された希少なスキルだ。
そして、鑑定スキルによっても看破されないもの――
「……あ、すいません、何でもないです」
「何でもないってことは無いだろ!? それに敬語ウザい!」
「えぇー。一回くらいは許してよ」
察するに、シェリルさんはユニークスキル『創造才覚<魔法>』とかを持っているということかな……?
実際にその名前を見たことはないから、本当に『<魔法>』なのかは分からないけど。
「むぅ、それを知っているなんてただ者じゃないぞ……?
軍のやつにも、ここの連中にも言ってなかったのに――」
「まぁ、私も持ってるしね」
「ふぇっ!?」
さり気なく、自分のことをバラしてみる。
多分、ヴィオラさんが他の誰かにバラすことは無いだろう。
下手をすれば、自分の方もバレてしまうのだから。
「さて。それじゃ、シェリルさんのことも聞かせてもらえる?」
「……いや、その前に1つだけ確認させてくれ」
「え? どうぞ?」
この流れは、私の『創造才覚<錬金術>』について突っ込まれるか、もしくは他の――
「お前の名前、何だっけ?」
……いまさら!?
アイナだよっ! アイナですよっ!!