九、魔王の証
イザは、魔族達がまだ、心底から自分を認めていないと感じていた。
それはそのはずで、抱き方で分かるのだ。
彼らのほとんどは、イザを抱く時には女王だなどと思っていない。
ただ、都合良く精を注げる『モノ』のように扱う。
痛くないように優しく抱くのは、その魔玉の効果が表れているから。
むしろ、その魔玉に対する感謝でしかない。
イザも、最初はそれでも良かった。
受け入れさせるには、どんな切り口でも良かったから。
でも、魔玉の主としての、何とも言い難い自尊心が現れはじめた。
それで会議の場で言ったのだが、単なる出まかせではない。
一人だけ、イザを女として多少の好意を持っている男が居るのだが、彼に注がれた時だけは、魔玉の力をより強く感じるのだ。
奇しくも、最初にイザを抱いた男、グリークがそうだった。
彼は、イザの容姿を気に入っている。
美しく整った顔立ち、白い肌、細身であるのに豊かな胸。
そして人間には珍しく、無駄な毛が無い。
魔族は、顔と頭に生えるもの以外に体毛など無い。
だから人間など汚らわしいと思っていたのに、イザはそうではなかったからというのが、最初だった。
激しく抱いても文句ひとつ言わない。
罵倒しながら抱いても甘んじて受け入れる。
そのような堪え性のある女は、魔族ではありえない。
それが段々と、愛おしく感じるようになったらしい。
そんなグリークの心境の変化など、イザは知る由もないが。
ただ、受ける精と魔玉の反応だけは、しっかりと感じていた。
だから、イザは言う――。
「人間を心から憎いと思うのであれば、人間でありながら人間を憎む私を受け入れなさい」
そして、こうも言った。
「これからは、私の何か一つでも愛しなさい。愛をささやけない者には、抱かせない」
その瞳の奥が、妖しく光る。
「それに……。もう、捌け口無しでは……あなた達であっても耐え難いはずよ? 私を抱かなくては、満足に眠れなくなるでしょう」
それは確信だった。
毎日減らない男達。
魔玉のため、魔力の恩恵のためだとぼやいていたのは、最初だけだった。
イザを捌け口に使った男達は皆、自分の妻や恋人では満足出来なくなっていた。
欲望をさらけ出し、思いのままに美しい女を抱く快感と快楽は、他の何にも代え難い魂への麻薬であった。
その甘い蜜の味を知り、いつでもそれを味わう事が出来る状況であるなら……我慢など出来ようはずがない。
会議の場にいた者が言った。
「貴様……謀ったのか!」
だが、イザは冷たく言い放つ。
「馬鹿な男……。自覚が足りないのね。己が愚か者に過ぎないと知りなさい」
「人間の分際で無礼な。皆に抱かれて勘違いをしたか! ……この場で殺して、魔玉を胎の中から取り出してやっても構わんのだぞ」
男は本気のようで、魔力をその手に集めて攻撃するつもりだった。
それを誰も止めようとしないのは、皆少なからず、イザの言葉に苛立ちを覚えていたから。
「可笑しい。もう誰も、私に敵わないことも分からないのね。私を犯すことに夢中で、頭が悪くなってしまったのかしら?」
そう言ってイザは、下腹部をなぞるようにして手を当てた。
その仕草だけで、男達は欲情してイザを襲いたくなった。
しかし、こんな場で女を犯そうものなら、魔族の品格に傷が付くどころではない。
「はやく。それで私を殺せると思っているなら、ここにでも打ち込んでみればいいわ」
そしてなまめかしく胸を持ち上げ、丸く柔らかなそれに、細く白い指を食い込ませた。
布越しでもはっきりと分かるその質感に、皆、それを揉みしだいた記憶が蘇る。
釘付けになった男達を一瞥し、イザがその美しい顔で微笑むと、攻撃しようとしていた男の魔力が霧散した。
「なにっ! 魔力が!」
イザはそれを見て、少し呆れた声で言った。
「まだお分かりにならないの? 皆、欲望の中で私をどこかしら、愛してしまったのよ。素直に認めて、それを私にささやけばいいの。そうすれば、いつもみたいに……この私を好きに出来るのよ?」
その言葉で、皆の心は折れた。
実際に、今すぐに押し倒して犯したいという欲求が、頭の中を支配しているのだから。
「私は、部屋に戻ります。一番に来てくれるのは、どなたかしら」
そう言ってイザは、その場を後にした。
**
そして、イザの部屋。
イザが部屋に着くや否や、あの会議の場に居た男達が並んだ。
その日一番の栄光を手にしたのは、イザを殺そうとした男ではなかったけれど。
「ようこそ。早速来てくれたのね。嬉しい」
「あ、ああ。それよりも、早く抱かせてくれ。愛でも何でもささやこうじゃないか。そうだな、俺はお前の従順さが好きだ。従順に抱かれて見せるお前が、愛しくてたまらない」
欲を満たすためか、本心からか、男はイザの言った通りに愛をささやいた。
だが、素直にそれを告げたせいか、男がその時に得た快感も満足感も、普段の比ではなかった。
全身でイザを抱き、貪るように何度も犯した。
本当に、その時間だけは本気でイザを愛した。
そしてそれは……イザと魔玉に、さらなる力を与える。
同時に、彼にも力を与えた。
そう。これからは……イザを深く愛した者ほど、強い力を得る事が出来る。
それが知れ渡るのは、もう少し先とはなるが……。
魔族達は、ここに最高の女魔王を生み出したのだった。
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