「私は信じてるから!
みんなならなんとかしてくれるって信じてるから! 」
「絶対に生きてね!
こんな所で死なないでね!」
「このふざけたコロシアイを終わらせて、
ちゃんと生きてここから出てね!」
「それで…外でみんなで友達になるんだよ?
いい友達になれると思うからさ。」
これが、赤松楓が私たち全員に残した最後の言葉。中心人物として皆をまとめて来た人間の、最後の言葉。
皆はそれに思い思いの反応を返す。
酷い顔で泣く者、無言で俯く者、冷静に見つめる者。
場の空気は最悪で、 けれども皆、確かに彼女の意思を継ごうと決意している。
それは、私も────……東条斬美も同じで。
赤松さんの目的がそのまま、
私の目的となった。
けれど、その想いは余りにも強すぎて。
前向き過ぎて、しんどかった。
「そう! この国の未来は、
すべて彼女の両肩に懸かっているのです!」
「でも、東条さんならきっとやれるはずです。
彼女は受けた依頼は必ずやり遂げる人ですから。 」
小さいモニターからわざとらしい声が聞こえる。
「あ、そうそう、
ちなみになんですけど…」
「この後、この民度の低い国民のみなさんは、
とんでもない目に遭ってしまう訳ですが…」
「それが何かは内緒だよ。
うぷぷ…自分自身の目で確かめてくださいね。 」
「……なっ…」
私はわなわなと体を震わせ、弱々しく息をはき出した。
先ほどの言葉を皮切りに再生を終了したビデオは、液晶に歪んだ国民の皆様と憎たらしい白黒のクマの静止画だけを映している。
────たった今、私は思い出した。
“この国がかつてない危機”に見舞われたのを機に、私はこの国の総理大臣に全権を委ねられ、国を任されて……
“真の総理大臣”として、この身を捧げる想いで国民の皆様に仕えていた事を。
ああ、なぜこんなに大事なことを私は忘れていたのだろう。
いえ、きっとあの悪辣なクマのせい。
どうにかして、私の記憶を、16人の記憶を消して……
でも、特定の記憶だけ思い出させるなんて可能なこと?
そんなに技術を要すようなことを、ビデオ1つで出来るなんて、この国の”かつてない危機”についてだって真実味を帯びてきた。
ああ、今すぐ外に出たい。 出て確かめたい。
でもこの学園を取り囲む檻がそれを許さない。
───出るためには、殺すしかない。
そう、簡単なことなのよ。
13人の高校生か、何億もの国民の皆様か。
どちらを選ぶ方が有益か、なんて……
赤松さんの言葉は前向き過ぎた。
すでに一度、あの地下通路で叩きのめされ、自由を求めた結果として、自ら天海くんを殺めたというのに、まだ犠牲を、コロシアイをなくして皆が生き残れると考えている。
あまりにも非現実的で、けれでも正論だからこそ反論などさせてくれない、有無を言わさない言葉。
そう、非現実的なのよ。
いつ出られるかもわからない、出られるのかもわからない。
こんな所にいるうち、国が滅んでしまったら。
そんなことにはさせない。
そのためには、誰か殺してしまわないと。
……国民の皆様のためよ。
決して、自分が生き残りたいからじゃないわ。そうよ、そう、国民の皆様のために……
そのために、13人を犠牲にするしかない。
しくじった。
学級裁判で彼らに敗北してしまった。
あげくの果てに、当てにしていたみんなの同情心、自己犠牲心も王馬くんと百田くんが台無しにしてくれた。
「ああ、あ、ああぁぁあああ!!」
結果として、今、私はどうなっているのかもよくわからない電動ノコギリの刃に切り裂かれながら、この一本の茨に必死にしがみついている。
───クソ、クソ!
死にたくない死にたくない死にたくない。
私はこんな所で死んではならない!
国民の皆様が私を待っているのだから!!
どこに通じているのかもわからない茨を、私は必死で登る。腕も脚も疲れ、引き裂かれた皮膚の痛みに耐え、それでも尚、希望を信じて……
───光。
いま、自分の真上から、光が。
────助かる。 まだ、生きられる。
私は、光に手を伸ばして……
「……ぁ」
それがただの絵が見せた幻視だと気づいた。
───希望なんて、なかった。
……ぷつり、と音がして、茨が切れる。
「いやッ! いやぁああああ!! 」
落ちていく。 堕ちてゆく。
死んでしまう、嫌だ、死にたくない、嫌だ!
こんな所で、国民の皆様は、私が、死にたくない
思考がまとまらない。 人間は死ぬ直前生き残るため走馬灯を見ると言うが、こんな状況で生き残れる可能性なんてないのだから、ただ目前の死に恐怖するしかない。
地面まであと、5m,4m,3m,……
グシャリ。
鈍い音がした。
コメント
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私の推しの小説初めて見ました...感激です✨斬美さんの最後まで抗う姿や信念などをしっかりと書かれていて尊敬します...!