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「というわけで、わからせにきたわ!」

「あの、アイリス様?」


騎士科の部活動に突然現れた私に、ペルラは困惑をにじませた。

すらりとした美少女だ。部活ということで、騎士鎧をまとい、茶色いその髪をポニーテールにしている。

ペルラ・カバロ。ひとつ下の学年で17歳。騎士家系の出だ。


「あなた、レヒトのことが好きなよね?」

「はいっ!?」


図星をさされて、ペルラは赤面した。過去、何度か接触はあったが、この娘は基本、恋愛耐性が低い。


「隠しても無駄よ。私は何でも知っているわ!」


何でも知らないけれど、知っているを装い、堂々と胸を張る。ちなみに、私も軽鎧と小手、足にはグリーブを装備し、戦う気満々である。

キョロキョロと周囲を見回すペルラ。騎士科生徒たちが遠巻きにこちらを見ているが、肝心のレヒトはいない。


「あの、アイリス様、それは――」

「言わなくてもわかっているわ。私も人の恋路の邪魔はしたくないの。むしろ、あなたを応援しようと思っている」

「お、応援ですか……」


とても困った顔をするペルラ。私は言った。


「あなた、私のメアリーがレヒトをたぶらかしていると勘違いしているようだけど……」

「……か、勘違いなんて!」


メアリーの名前を出した途端、言葉に攻撃的な色が混じった。気にしているのね。


「レヒト様はメアリーという一年に会いに、昨日も――」

「それが勘違いなのよ。何故なら、レヒトが会いに行ったのは、メアリーじゃなくて私が目当てなのだから」

「え……?」


ペルラの目が点になった。まったく想像していない言葉だったからだ。


「この間、私が彼を負かせてしまったのは知っているわね?」

「そ、それは……はい」


当然、知っていた。私に負けた彼が、しばし自己鍛錬モードに入って修行しまくったのは、騎士科生徒なら知らないはずがない。


「彼は私のもとによく相談しにくるようになったわ。……まあ、多少、好意がこもっているのはわかるわ」


ドヤァ、と私はペルラに勝ち誇りの笑み。


「ごめんなさいね。あなたのレヒトを奪ってしまって」

「……!」


ペルラの顔が朱に染まる。羞恥ではない。怒りだ。騎士の娘が、侯爵令嬢を睨んでいるわ。何と恐れ多いこと……。煽りがうまく言っているようで何より。


「でも、私、彼には興味ないの。未来は素晴らしく優秀な騎士になるのは保証するけれど、それとこれは話は別」

「興味ないって……!」


ペルラが一歩を踏み出した。


「いくらアイリス様でもそれはあまりにも! レヒト様のお気持ちを――」

「たわけ!」


私は一喝した。


「何故そうなるの? あなたはレヒトのことが好きなのでしょう! あなたがしっかりしないから、私などに彼がウツツを抜かしているのよ!」

「!?」

「自分の不足を私にぶつけるのは、百歩譲ってあげるわ。私は寛大だからね」


私は模擬戦用の木剣を手にとった。


「でも、勘違いとはいえ、私のメアリーに手を出そうとした罪は重いわよ!」


未来の王妃様に手を出すなんて、極刑でも文句は言えないわよ! ……と、今日のお前が言うな、はここですかー?


「きなさい、ペルラ。あなたのその甘ったれた脳味噌にもわからせてあげるわ!」







バカ、バカ、バカ! 体力おバカー!


私はペルラと決闘まがいの模擬戦をした。レヒトに恋い焦がれるペルラが、恋路の邪魔をするメアリーを追放すべく決闘を挑む刺客イベント。

メインヒロインになりかわり、私がペルラを返り討ちにしたのだけれど……。ちょっとしつこ過ぎるんじゃありません?

ゲームでは、育成したステータス次第で秒で終わるイベントなのに、こいつ、何回私に挑んでくるの?


ちょっと今回は煽り過ぎたのかしら? やたらと突っかかってくるんですけど!

実戦なら、もう10回は死んでる。もちろん、私の圧勝。


ペルラの女ながら強めのパワー。まともに受けてたら木剣がダメになってしまったでしょうね。それをいなしつつ、私は彼女の動きの隙を突き、倒す。

騎士科生徒たちが見守るが、誰もがそれに見とれているようだった。誰か止めてくれてもいいのに。もう勝負はついているのよ!


でも誰も止めない。私も止めない。わからせてやると言った手前、私から切り上げるのは、何だか根負けしたようで格好がつかない。

さっさとギブしろ、と心で思うが、やはり私からは言わない。言ったら負けだ。


「ふふん、騎士科最強のレヒトに勝っているのよ、私は。あなたの腕は認めるけれど、レヒトに劣っている時点で、勝てると考えるのは傲慢ね」

「……っ!」


倒れたペルラが起き上がる。ああ、ほんとしぶといわ。彼女は肩で息をしている。私より重装備だものね。

結構長く付き合ったけれど、私は傍目には息ひとつ乱れていない……ように見せている。これでも実戦経験はもちろん、体力だって生徒たちとは段違いなのだからね。

圧倒的女帝感! 悪役令嬢の貫禄! などと思ってないとやってられない。


「どうしたら、あなたに勝てますか……?」


ボソリ、とペルラは言った。膝をつき、とうとう泣き出してしまう。


「アイリス様のように、強く……」

「……馬鹿ねぇ」


私は木剣を収め、ペルラのもとに歩み寄ると、片膝をついてその肩に手を置いた。


「あなたは充分に強いわ。ただちょっと、私より頭が弱いだけよ」

「アイリス様……」

「あなたに足りないのは勉強ね。それができれば、レヒトもあなたに振り向いてくれたのにね。彼、賢くて強い女性が好みなのよ」


レヒトの好みで言えばそうなのだが、それをペルラに告げてふと思う。私、完全に彼女の傷に塩を塗りつけているような……。

賢くて強い女性……自惚れになるが、これ私だー。ペルラの完全上位互換だ。


「私は頑張る女性が好きなのよ」

「え……は……?」


呆けたような顔になるペルラ。私は彼女の頬に指で持ち上げた。


「私があなたを指導してあげるわ。レヒトが好む女にあなたを仕上げてあげる」

「アイリス様……!」


はい、これでペルラの刺客イベントが消滅しました! 勝利! これでまたメアリーのお姫様エンディングに近づいたわ。……あー、それにしても、今日は疲れたわ。お風呂に入ってさっぱりしたいわー。

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