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ないこ視点
あれから、5年が経った。
俺は小さなデザイン事務所で働いていた。
日々は穏やかで、心は以前より静かだった。
恋もいくつかした。
でも、誰かの煙草の匂いが風に混じると、なぜか心がざわつくことがある。
あの夜のことを、完全には忘れられなかった。
そんなある日、駅前の本屋で偶然に視線がぶつかる。
「……りうら?」
「あ、……ないくん。」
一瞬で、5年の時が吹き飛んだ。
変わったのは見た目だけだった。
りうらの目は、やっぱりあのときと同じで、ずるくて、やさしかった。
「……コーヒーでも、飲む?」
自然にそう言えたのは、時間が優しくしたからだろうか。
隣を歩きながら、昔みたいにふざけ合って、何でもない話をした。
ふと、聞いてみる。
「煙草、まだ吸ってんの?」
「……やめたよ。」
それだけで、胸がぎゅっとなる。
変わろうとしたんだ。あの頃と、同じじゃいけないと思ったんだ。
コーヒーを飲み終わって、別れ際。
一度言ってみた。
「今さら戻るとか、そういうのじゃないけど……」
「うん。」
「元気でいてよ、ちゃんと。」
りうらは少し笑ってから、まっすぐ目を見て言った。
「まだ、ないくんだけ見てるよ。」
俺は答えなかった。
でも、その一言で、涙がにじんだ。
それから
何度か偶然を重ねて、
二人はまた、自然と近づいていった。
恋人じゃない、でも他人でもない。
それでも、心は今、確かに寄り添ってる。
夜、りうらがないこの部屋でつぶやく。
「もう0時過ぎても、泣かせないよ。」
ないこは小さく笑って、答える。
「じゃあ、信じてみるよ。今度は。」
傷つけあった過去も、すれ違った想いも、
全部抱きしめたうえで、二人は前を向く。
それは、再会じゃなくて「新しい始まり」。