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名前 ⇨ 〇〇
『』 〇〇
「」 及川徹
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放課後の第3体育館。窓の外は、燃えるような茜色に染まり始めている。
バレーボールが床を叩く乾いた音と、シューズが擦れる鋭い音。それらが止んだ後の、静まり返った空気の中で、及川徹はいつも通り私の隣に座っていた。
「ねえ、今日のサーブ、どうだった?」
彼はスポーツドリンクを飲み干し、少し乱れた前髪を無造作にかき上げる。私は膝に置いたスコアブックに目を落としたまま
『いつも通り、えげつなかったよ』
と素っ気なく返した。
幼馴染。その肩書きは、私にとって最強の免罪符であり、同時に消えない呪いでもあった。
彼の隣にいることが当たり前で、彼の努力も、挫折も、勝利の味も、誰より近くで共有してきた自負がある。及川徹の隣は、私の指定席だと思っていた。
けれど、最近の彼は少しだけ違っていた。
「……そっか。あの子、見ててくれたかな」
ポツリ と、独り言のように彼が漏らした。
心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。
「あの子」とは、最近バレー部のマネージャーを手伝いに来るようになった、他クラスの女の子のことだ。控えめで、けれど芯が強そうで、何より及川がコートで見せる熱量を、真っ直ぐに受け止める瞳を持っていた。
『……及川。もしかして』
「うん。多分、〇〇の想像通りだよ」
彼は自嘲気味に笑い、体育館の天井を見上げた。
その横顔を見て、私は息が止まりそうになった。私に向けてくれる、からかうような笑顔でも、ライバルに向ける好戦的な顔でもない。
ただ、一人の女の子を想って、焦がれて、胸を痛めている——そんな、一人の「男の子」の顔をしていたからだ。
「協力してよ、幼馴染(パートナー)でしょ?」
その言葉は、私の胸の奥深くに冷たい杭を打ち込んだ。
彼は私が自分を好きだなんて、微塵も思っていない。あまりに近くにいすぎたせいで、私は彼の「景色」の一部になってしまっていた。
それからの日々は、地獄のような時間の連続だった。
「あの子は何が好きなのかな」
「どう誘えば迷惑じゃないと思う?」
部活帰り、いつものコンビニの前で、彼は私に相談を持ちかける。私は
『あの子は甘いものが好きだよ』
『強引すぎるのはダメだよ』
と、自分の胸を切り刻みながら、彼に「恋の攻略法」を授けていった。
私がずっと欲しかった言葉。
私がずっと見せてほしかった情熱。
それらすべてが、私を通り越して、別の女の子へと注がれていく。
及川が彼女のために選んだプレゼントのラッピングを、私が手伝った夜。帰宅して部屋の電気を点けなかったのは、鏡に映る自分の顔を見るのが怖かったからだ。
そして、決戦の日。
地区予選の決勝前夜、彼は彼女を校舎の裏に呼び出した。
私は彼に頼まれて、少し離れた場所で見守る役目……「成功したら合図するから」という、残酷な約束をさせられていた。
夕暮れ時。影が長く伸びる校舎裏。
及川は、いつになく緊張した面持ちで、彼女の前に立っていた。
何を話しているのかまでは聞こえない。けれど、彼の肩の力の入り方、彼女を真っ直ぐに見つめる視線の強さだけで、彼の本気度が痛いほど伝わってくる。
やがて、彼女が小さく頷き、顔を赤らめて微笑んだ。
及川の顔が、見たこともないほどの輝きに満たされる。彼は彼女の手を取り、何かを囁いた後、ふと思い出したように私の方を振り返った。
遠くから、彼が私に向けて、親指をグッと立てて見せる。
「うまくいったよ!」という、少年のような、無邪気な合図。
(……ああ、終わったんだ)
その瞬間、私の中で張り詰めていた何かが、音を立てて崩れ去った。
おめでとう。よかったね。さすが及川さんだね。
用意していた言葉は山ほどあったのに、喉が痙攣して、一言も出てこない。
視界が急激に歪み、熱い雫が頬を伝って地面に落ちた。
『……っ、ふ、……』
声を押し殺して、私は踵を返した。
彼に見つからないように、祝辞を述べる義務を放り出して、逃げるように走り出した。
心臓が痛い。走っているからじゃない。彼が私の隣から、完全に卒業してしまったからだ。
及川徹にとって、私はこれからも「良き理解者」であり、「何でも話せる幼馴染」であり続けるだろう。
明日になれば、彼はまた私の隣に来て、彼女との惚気話を、幸せそうに話すに違いない。
そして私は、引きつった笑顔でそれを聞き続けるのだ。
「幼馴染」という、逃げ場のない檻の中で。
夜の帳が下りる校舎の廊下。私の泣き声だけが、無機質な壁に反響していた。
及川。大嫌いだよ。
あの子に向けるその顔を、一度でいいから、私に向けてほしかった。
私の初恋は、彼の幸せな報告とともに、美しく、そしてあまりに残酷に幕を閉じた。
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失恋です‼︎
失恋したことあって、悲しいです😖
フォロワー二人増えました💗