テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
無能力者の仕事は単純だ
運ぶ 片づける 待つ
判断も選択も求められない
「そこ、邪魔」
能力者が通るたび、体が自然と道を譲る
名前を呼ばれることはほとんどない
呼ばれるときは決まって
「おい、無能力者」
それだけで十分だった
反論する意味はない
声を上げても
聞かれないことをよく知っている
能力がないというだけで
存在は“透明”になる
見えているのに数えられない
そこにいるのに
最初から居なかったことにされる
名前なんて必要ない
呼ばれるときは決まって同じ言葉だ
「無能力者」
それ以上でもそれ以下でもない
指示が来るまで壁際に立つ
邪魔にならないように影に寄る
それでも通路を塞げば舌打ちが飛ぶ
「そこじゃない」
「どけ」
「見えてる?」
見えている
ただ見えていないことにされているだけ
能力者同士の会話が頭上を流れていく
任務の話
昇格の話
功績の話
そのどれにも自分は含まれない
失敗は無能力者の責任になる
成功は能力者のものになる
そうやって帳尻が合う
休憩の時間になっても呼ばれない
訓練も食事も後回しだ
「まだ立ってろ」
短い命令
逆らえば次はない
膝が笑っても
腕が震えても
それを理由に止まることは許されない
無能力者は、耐えるために置かれている
それが役割で
それだけが価値だ