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お茶を一気に喉へ流す。そんなどうでも良い姿すら、瞬き無く、睨みつける彼女の視線が痛い。
「どう……でしたか?」
「いや、良いと思うよ。でも、ただ、何のための作品なのかによって評価は変わるかな」
その小説は、しのちゃんにしては珍しく、エンタメに寄り添ったものだった。記憶にある限りの彼女の作品は、大抵が二昔ほど前の海外文学のような、孤独と分厚い哲学に支配されたものばかりであったはず。だから、この変化には正直驚いた。
物語の流れは大まかにこうだ――幸せな生活を送る女がいた。金と時間に恵まれ、それでも更なる幸せを求める女がいた。
ある日、夫の浮気が発覚する。女はあまりの悲しみに嘆き、やがて自身の全てを賭けた復讐を誓う。燃える魂は悪を許しはしない。夫を責め立て、離婚し、それに留まらずに社会的地位すら落す。
読み終えると最後には、正義なんていたのか――そんな問いで胸が引き裂かれる、そんな物語だ。まあ、彼女曰く、物語にはまだ先が残されているとの事だが。
「……あれ。しのちゃん、もしかして。……失恋?」
言葉が零れた。しのちゃんは飲もうと持ち上げていたコップを戻し、白紙の原稿用紙を切り破いた。折り畳まり、壊れたキーボードのように叫ぶ。
「私は、本気だったのにぃ……遊ばれてたみたいでぇ……。ぐわぁぁん!」
粘度を持った唾液が散乱した。鼻水混じりのその声が、書かれた文字に染みていく。
「……そ、そっかぁ。大変だったね」
遊び……か。背中を擦り、慰めながら思う。
胸の奥で遠吠えが響く。遂に目を覚ました白虎が、夕日に照らされ、輝いていた。