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「……珍しいじゃん、お前から『二人きりで飲もう』とか。なんかあった?」
「や?別になんもないけど……たまにはこういうのもいっかなーって」
大嘘だ。なんかしかない。俺は目の前でデカイ卵焼きを二つに割るらっだぁにバレないように、すーっと深呼吸をした。
今日ここで決めろぐちつぼ。漢になれぐちつぼォ!!!
心の中で大声で自分を鼓舞し、まず日本酒を一口。そしてまた一口。唐揚げを一口。
「……なんかお前緊張してる?」
「へ??全然??どこが???」
「ああそう…」
らっだぁの訝しげな視線から逃れるように、グラスの中の残りの日本酒を飲み干す。飲んでるはずなのに中々喉が潤わなくて、ビンの中身を継ぎ足すと「こいつマジかよ…」という目で見られてる気がして「なんか文句あんのか」という目で返した。お前のせいだぞとは言わなかった。
……なんで俺がこんな緊張しているのかというと。話は数年ほど前までさかのぼる。
未だに認めたくない。ぜっっっっっったい認めたくないが、どうやら俺はこのらっだぁとかいう奴のことが、……好き、らしい。
いや勿論分かってるおかしいことは。同性どうこう以前にこんな奴のどこに好きになるポイントがあるんだよと思う。でもどう考えたってこの感情は「恋」としか言い様がないのだ。
そんな想いを拗らせかけつつ早数年。好きならその想いに気づいてほしい、あわよくば付き合ってほしいという気持ちを遠回しにらっだぁに伝えてみたりしたことは、ある。だがこのクソボケ野郎変なとこで鋭いくせに全っっっっっっっっっっく俺の気持ちに気づかない!気配すらない!頭に何詰めてんだよ!!!
でも今日という今日こそは決着をつけてやる。…勝っても負けてもな。そんな気持ちで今日らっだぁを呼び出したのだが……
………あーーーほんとコイツマヌケな顔してらぁ。そら気づかねぇのもしょうがねぇわ。
そう思いながら枝豆を口に入れるらっだぁのマヌケ面を見てると、
「……やっぱお前俺になんかあるよな?」
ヤベ、見てたのバレた。
「いやぁ?マヌケ面してんなーと思って」
「おいなんだとテメェ。…ぃや〜それ抜きにしてもお前俺になんかあんだろ」
「だから何もないって」
「絶対なんかある!そうじゃなきゃわざわざ『二人きり』で飲もうとか誘ってこないって!」
「…あーじゃあ分かった。言うから言うから。………お前さぁ、告白ってどうやる?」
「ゴホッ!!!」
「なんでそこで噎せんだよ!」
「えー?だってさぁ、」口元を紙ナプキンで拭いて卵焼きを口に運ぶ。それでやっと落ち着いた様子のらっだぁは
「ぐちつぼから『告白』ってワード聞くとは思わなくてさぁ……告白って恋愛の方の?」
「そっちじゃなかったら逆にどうすんだよ。罪の告白とか俺には関係ないから」
「告白ぅー……?そんなん呼び出して『好きです付き合ってください』で終わりじゃねえの」
それで終わりだったらとっくにそうしてるわ!!!
そう叫びたいのをぐっと堪えて「まぁそうかー…」で流す。
「で、なに?お前付き合ってくださいって言いたい人がいんの?」
なんとなくそうだろうなと思ってたが、案の定ニヤニヤしながららっだぁは顔を近づけてくる。急に近くなったもんだから少し心臓が跳ねたのと同時になんだコイツ酒くせぇしと思う。
「まーいるっちゃいる…んだけどぉ、」
「だけど?」
「そいつが信じられんくらい鈍感で…アピールしたりしてみても全然気づかんのよ」
「へー。全然気づかないなんてことあんだ」
グサッ。
グラスの中の酒を呷るらっだぁの頭にブーメランが刺さった気がしたが、まあ、黙っておこう。
「うーーーんまぁめげずにアピールしてみたら?そのうち相手も気づいて意識してくるやろ」
「それやって全く気づかないから相談したんだけどなぁ……」
「あーそんな事より前みどりがさぁ」
「そんな事より!?!?!?」
これ以上話したら何かボロが出そうな気がしたので話題を変えてくれたのはありがたいが、やっぱコイツ俺のアピールに一切気づいてなかったのか……と若干ショックを受ける。俺傍から見たらクソハズい奴じゃん。
俺の話なんかすぐに忘れたのかこの野郎、楽しそうに自分の身の回りに起こったことをぺらぺら喋ってる。んだコイツ俺はお前のせいで今こんなんなってんのによと思いながらも目の前のらっだぁの顔を見て、あーこれやっぱ「恋」なんだな……と認めざるを得なかった。
「……お前飲みすぎだろふざけんなよ………」
「あ〜?知らねぇ〜〜」
完全に酔っ払ってんなコイツ。
俺は真っ赤な顔でフラフラしてるぐちつぼを抱えながらぐちつぼ宅までの道を歩く。クソ、電車も逃したし。なんだコイツ。でもコイツなんか様子変だったしなぁ。だからといって飲むペース早すぎだろ。
心の中でそう呟きながら今にも倒れ込みそうなぐちつぼを抱え歩く。やっと家に着いた時には俺も疲労困憊だった。
「あ”ーやっと着いた……ぐちつぼ、鍵は」
「鍵ぃ?…あー、ポケット……」
そう言って座り込みやがった。ため息を一つ吐いてポケットの中を探る。すぐ見つかった鍵を挿し込みまたぐちつぼを抱える。このくらいの距離なら一人でもなんとかできるだろと思ったが、想像以上に酔ってるらしく俺がこのまま帰ると玄関で寝そうだな…という善意からだ。
「ぐちつぼー?家着いたぞ〜」
「おう……」
ほとんど眠りかけてる様子のぐちつぼを部屋のベッドに寝かし一息つく。勝手に冷蔵庫の中に入ってた水のペットボトルを飲みながら、そういやこの後どうしようと考える。別に歩いていけない距離ではないが、遠いし何より俺も疲れた。
「らっだぁ……」
「あ?お前歩けんのかよ。それよりさー俺この後どうしよう」
「泊まってけばぁ……?風呂入りたいなら貸すけど……」
「マジ?じゃあ泊まってこうかな。風呂はー…いいや。ブランケットとかない?俺ソファでいいからさ」
「や……ベッド貸す」
「え?いやそこまでいいよ。朝なったら帰るし。それにお前寝るとこないじゃん」
「俺もベッドで寝るから……」
……ハァ、コイツマジか。
別に俺はぐちつぼになんかやらしい気持ちあるわけないし、一緒に寝るくらいは構わないが…一人暮らしだから当然といえば当然だが、ぐちつぼの家のベッドは一人用なのだ。そんなのに大の男二人で寝たらミッチミチになるに決まってる。
「いいから早く来い…」
「おいお前、ちょい待て」
酔ってるくせに力強いぞコイツ!!
「うわっ」
そのままベッドにぽすんと放り投げられるとぐちつぼも倒れ込んでくる。そんで案の定、狭い……。
「…なーぐちつぼ、俺はまぁいいけどさぁ、お前いいの?」
「…んー…?なにが……」
「いやだって…狭いだろ。さすがに」
「別に全然いいわ……俺だってお前のこと好きだし……」
「……………ハ?ぐちつぼちょっと待て、今なんて、」
「あぁん…?だからぁー、俺お前のこと好きだし……」
そう言ってぐちつぼは目を閉じ、気持ちよさそうに寝息を立て始めた。俺はというと、思わず起き上がってしまい、少し来てた眠気もどこかに吹っ飛んで、バカみたいな面で爆睡してるぐちつぼの顔を見ていた。
カーテンの隙間から朝日が差し込んできて俺の目を覚ます。…あー頭痛い、飲みすぎたやつかこれ。記憶あやふやだし。
「……ア?」
ア!?!?!?!?!?!?なんで隣にらっだぁがいんの!?!?!?俺の家なんだけど!?!?!?!?!?
まさか、まさかと思い急いで俺の身なりとらっだぁの身なりを確認する。が、服は昨日と全く同じだし周囲も別に散らかってない。よかった、最悪の可能性は免れた。
「あー…らっだぁー……?」
「お、おはよう……」
…朝っぱらからなんだコイツ。やけによそよそしいというか、全然目ぇ合わせてくんねぇ。
「ぐちつぼ、さぁ〜……ちょっといい?」
「なにが」
「昨日飲んだとき、告白ってどうすんのみたいに聞いてきたじゃん」
「聞いたね」
「それで、好きな人いんのって聞いたじゃん」
「聞かれた。…クソ鈍感な奴な」
チクッと遠回しに刺してみるつもりで言ったが、ここからのらっだぁのリアクションが想定外というな、斜め右どころじゃない方向だった。
「……もしかしてそのクソ鈍感な奴って、俺?」
「…………………………ハァ!?!?!?!?!?」
な、なんで!?なんでバレてんの!?!?!?俺コイツにお前が好きとか言ってねぇよな!?!?!?!?
目を逸らして若干顔を赤くしてるらっだぁに可愛いところあんないやそんな場合じゃねえだろと思いつつ、
「お、俺いつお前に『お前が好きだ』って話した!?!?」
「…あーやっぱそうなんだ」
「やっぱ……?て、アーーーーーー!!!!!」
言っちゃった!言っちゃったよお前相手にお前が好きって!!!
「え、え?今らっだぁ俺にカマかけた??」
「いやそうじゃなくて…俺昨日お前を家に送って、俺ん家遠いしどうしようっかなーて思ってたら泊まっていいよって言ってくれて。そしたらぐちつぼがなんか…『一緒に寝ようぜー』みたいに言ってきて…」
「は……?」
それが本当だとしたら我ながら何言ってんだコイツとしか言い様がない。だが、らっだぁの話しぶり的にどうやら本当らしい…
「それであの、『俺は別にいいけどお前はいいの』って聞いたらお前、俺のこと好きだから全然いいって言ってきて……」
あーもうやらかした。恥ずかしい。恥ずかしすぎて今すぐ穴に入って奈落の底まで掘ってさらに底の底まで掘って引きこもりたい。
「…リアクション的にホントなの?そのー…ぐちつぼが俺のこと好き、って」
「…あーーホントだよホント!!俺お前のこと好き!!!それで昨日二人きりになって決着つけようとした!!!そしたら酔いすぎて俺の知らないところでお前に告白してた!!!!!!」
ええーいもうこうなったら開き直りじゃい!!なんとでも言え!!!
決死の思いで全部告白したが、これで多分俺の恋は終わりだ。あーバカすぎる…なんだこの終わり方……
ハァハァ肩で息をしながら諦めてる俺を目の前に、らっだぁは拒絶するかと思いきや「あー…そうか……」と呆然と呟いた。
「ま、まぁなんかここで拒否するのも気まずいしな…」
ぐちつぼさぁ、と話しかけてくる。なんだ、なんだよ。気持ち悪いなら気持ち悪いって言えよ。無理なら無理って言えよ。
「俺、しばらく考えてみるからさ、俺にアピールしてみてよ。なんかここで無理っていうほどお前のこと嫌いじゃないし…かといって流れで告白されて流れで付き合うのも、それはそれで辛いだろうし…」
…ん?なんだこの流れ。ややこしいことになってきてない。
「…つまりさ、ぐちつぼ、俺のこと落としてみてよ。付き合う付き合わないは落ちてから考えてみるわ」
なんでそうなんの!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
開いた口が塞がらない俺を目の前にらっだぁは時計をチラリと見て、「じゃ、じゃあ俺帰るから。…これから、よろしく」と言い顔を若干赤くしたままそそくさと帰っていった。
…決着をつけようと思ってたのになんでさらに拗れんだよ……。
らっだぁが帰った俺の部屋で、俺はまたベッドに横になる。どうやら俺の恋物語はまだまだ続きそうだし変なことになりそうだ、と思うついでに自分が疲れ切ってることに気づき、二度寝を決め込むため目を閉じた。