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第66話 〚担任視点――違和感に気付く〛
朝のホームルーム。
生徒たちの声は明るく、夏休み前の浮ついた空気が教室を満たしている。
――表面上は、いつも通り。
担任は教卓に立ちながら、
何気なくクラス全体を見渡していた。
白雪澪(しらゆき みお)。
橘海翔(たちばな かいと)。
姫野りあ(ひめの りあ)。
西園寺恒一(さいおんじ こういち)。
名前を呼ぶ前に、
自然と目が行く生徒たち。
(……ん?)
担任は、ほんの一瞬、眉をひそめた。
澪は席に着き、
本を読んでいる。
いつもと変わらない、静かな姿。
けれど。
(顔、少し硬いな)
前よりも、周囲に気を配っている。
無意識に、背後を気にしているような仕草。
隣の列では、海翔が時々、
さりげなく澪の方を確認している。
(守る、って顔だな)
それ自体は、悪くない。
むしろ微笑ましい……はずなのに。
担任の視線が、
教室の後ろに移る。
恒一。
姿勢は良い。
ノートもきちんと取っている。
誰かと話せば、柔らかく笑う。
――優等生、そのもの。
なのに。
(……目が、動きすぎる)
澪が立ち上がれば、
視線が追う。
海翔が近づけば、
一瞬だけ、表情が固まる。
すぐに戻る、
完璧な“普通”。
(気のせい、か?)
そう思おうとした、その時。
りあが、
わざとらしく笑いながら、
澪の方をちらりと見た。
その視線を、
恒一が見ていた。
(……この三角)
担任の胸に、
言葉にできない違和感が積もる。
昼休み。
職員室に戻りながら、
担任はメモ帳を開いた。
「白雪澪」
「最近、少し緊張気味」
「橘海翔、気にかけている様子」
「西園寺恒一――」
ペンが、止まる。
(何かあったら、すぐ動けるように)
そう自分に言い聞かせ、
メモを閉じた。
放課後。
廊下の角で、
澪と海翔が並んで歩いているのを見かける。
距離は近いが、
どこか慎重。
(……大切にしてるな)
その後ろ。
少し離れた場所で、
恒一が立ち止まっていた。
目は伏せている。
けれど、二人の背中から、
視線を切っていない。
担任は、
一歩、前に出た。
「西園寺」
呼ぶと、
恒一はすぐに顔を上げた。
「はい?」
笑顔。
何の問題もない、生徒の顔。
(……今は、まだ)
担任は、
何も言わずに頷いた。
けれど、心の中で決める。
(見過ごさない)
生徒たちの日常は、
教師が思うより、ずっと脆い。
そして――
壊れる前には、
必ず“小さな違和感”がある。
その夜、担任は、
もう一度メモ帳を開いた。
そこに、新しい一行を書き足す。
「このクラス、要観察」
静かに。
だが、確かに。
歯車は、
大人の側でも、動き始めていた。