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第67話 〚守る立場〛(海翔視点)
朝の廊下は、
いつもと同じ匂いがする。
靴箱、掲示板、
すれ違うクラスメイトの声。
――全部、変わらない。
なのに。
(……澪)
橘海翔は、
少し後ろを歩く彼女の気配を感じながら、
無意識に歩幅を合わせていた。
前なら、
こんなこと、考えなかった。
「守る」とか、
「気を配る」とか。
でも今は違う。
澪が立ち止まれば、
自然と止まる。
誰かが近づけば、
一瞬、視線を向ける。
(……俺、こんな性格だったっけ)
教室に入ると、
澪はすぐに席へ向かい、
本を開いた。
いつもの光景。
けれど、
その肩が、ほんの少し、強張っている。
(気付いてるんだ)
自分と同じように。
昼休み。
澪がえま達と話しているのを、
海翔は少し離れた席から見ていた。
笑っている。
ちゃんと、笑顔だ。
――でも。
(無理してる)
それが、分かる。
気付いてしまったら、
もう、戻れない。
(放っておけない)
後ろの席。
恒一が、ノートに何かを書いている。
視線は落ちている。
でも、澪が動くたび、
空気が、わずかに変わる。
(……来るなよ)
心の中で、
そう呟いた。
自分でも驚くくらい、
本気だった。
放課後。
澪が一人で帰ろうとするのを見て、
海翔は立ち上がった。
「一緒に帰ろ」
声は、自然に出た。
「……いいの?」
澪は、少し戸惑う。
「いいに決まってる」
嘘じゃない。
言い訳でもない。
ただ、
一人にしたくなかった。
昇降口へ向かう途中、
後ろから足音がした。
一瞬、
身体が、前に出る。
澪より、
半歩、前。
(……やっぱり)
振り向くと、
恒一が立っていた。
「偶然だよ」
そう言って、笑う。
(偶然じゃない)
分かってる。
でも、
今は、それを指摘するより。
「澪、先行って」
海翔は、はっきり言った。
澪は一瞬迷って、
小さく頷く。
足音が、遠ざかる。
二人きりの廊下。
「……何?」
恒一が首を傾げる。
「澪に近づくな」
海翔は、低い声で言った。
恒一の目が、
一瞬だけ、細くなる。
「友達に言う言い方じゃないね」
「友達なら」
海翔は一歩前に出た。
「不安にさせない」
沈黙。
恒一は、
何も言わずに視線を逸らした。
「……分かったよ」
その声は、
妙に大人しくて。
(信用できない)
でも。
(俺は、立つ)
澪の前に。
澪の隣に。
誰かが傷つく前に。
昇降口で、
澪が待っていた。
「……ありがとう」
その一言で、
胸の奥が、熱くなる。
(守るって、こういうことか)
派手じゃなくていい。
強くなくていい。
ただ、
逃げない。
橘海翔は、
そう決めていた。
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