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「……俺、お前が欲しい」
若井の声が低く響いて、俺は思わず後ずさった。
けど、背中はもう
冷たい壁についていて、逃げ場なんてなかった。
若井はまだ胸ぐらを掴んでいた手を、ゆっくりと緩める。
代わりに、その手が俺の肩に移り、ぐっと押さえ込んだ。
「……ごめんな、元貴……止めらんねぇわ」
そう言って、ぐいっと顔を近づけてくる。息がかかるほど近い距離。
俺の心臓は、耳の奥まで響くくらいドクドク鳴っていた。
「わ、若井……っ」
名前を呼んだ瞬間、若井の額が俺の額にコツンとぶつかる。
そのまま、鼻先まで触れ合って――唇が触れそうな距離。
「……お前が他のやつのものになるくらいなら……俺が……」
震える声。必死な目。
俺は声を出せなかった。ただ見つめ返すことしかできなかった。
若井の唇が、あとほんの少し動いたら触れる。
その瞬間――ガラガラと扉の音がして、俺たちはハッとした。
「っ……!」
「……ちっ……」
慌てて距離を離す若井。
でも、もう誤魔化せないくらい、熱くて濃い空気が二人の間に残っていた。