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俺と若井は無言だった。
誰かに見られたわけじゃないのに、
妙に罪悪感というか、胸の奥がザワついて仕方ない。
若井は何事もなかったみたいに先を歩いていくけど、
さっきの熱っぽい目を思い出すと、まともに顔を見られなかった。
――ドクドクって、心臓がまだ落ち着かない。
その日の放課後。
部活前に水飲み場でぼーっとしてると、
涼ちゃんがひょっこり顔を出した。
「元貴、どうしたの? なんか顔が赤いよ」
優しい声。金髪が夕日を反射してきらきらしてる。
俺は慌てて首を振った。
「な、なんでもないよ…」
「ふうん……? 僕にはそうは見えないけど」
涼ちゃんは微笑んで、俺の隣に腰かける。
距離が近くて、ちょっとドキッとする。
「元貴、若井と何かあった?」
――ギクッ。
心臓が跳ねた。なんで分かるんだよ。
「べ、別に……!」
「本当に? 僕、若井が元貴のこと見てる目、よく知ってるからさ」
涼ちゃんの声は穏やかなんだけど、妙に鋭く胸に刺さる。
俺は目を逸らして、ぎゅっと拳を握った。
「……涼ちゃん……、俺……」
言いかけて止まる。
涼ちゃんは待ってくれる。柔らかい目で。
「……あいつ、俺に……」
言葉にした瞬間、全部が現実になってしまいそうで、喉が詰まった。
だけど涼ちゃんは頷いて、静かに言った。
「大丈夫。僕は元貴の味方だから」
その言葉で、胸が少し楽になった。
「……あいつ、俺に……」
喉の奥まで出かかって、でもどうしても声にならなかった。
言った瞬間、もう後戻りできなくなる気がして。
「……ごめん、やっぱ、なんでもない」
うつむいてそう言った。
涼ちゃんは、しばらく黙って
俺の顔を覗きこんでたけど――ふっと、柔らかく笑った。
「……そっか。無理に言わなくてもいいよ」
そう言うと、すっと腕を回して俺を抱き寄せた。
金髪の柔らかい毛先が頬に触れて、
涼ちゃんの体温がじんわり伝わってくる。
「……りょ、涼ちゃん……っ」
「元貴は、がんばりすぎるから。
泣きたかったら、僕のところにおいで」
耳元で、低くて優しい声。
胸の奥の、苦しいのと寂しいのが
ごちゃまぜになったものが、一気にほどけていく。
「……っ、ぐ……」
堪えてたものがこぼれて、俺は涼ちゃんの胸に顔を埋めて泣いた。
涼ちゃんは何も言わず、ただゆっくり背中を撫でてくれる。
その温もりに甘えながら、
心の奥にある「若井の気持ち」のことを、
少しずつ認めていく自分がいた。