1つ前の投稿へコメントくださった方、ありがとうございました!☺️②のパパが風邪を引いちゃう回にさせて頂きます!
まずは前編へどうぞ✨
「パパ、おやすみしててね」
その朝、高尾家の空気は少し違っていた。
リビングにママと△△の笑い声が響いているけど、ダイニングの椅子には、いつもいるはずの人の姿がない。
「ママ、パパは?」
娘がクレープを頬張りながら聞く。
ママは少し困った顔で答えた。
「んー……ちょっとね、お熱が出ちゃったみたいなの。今、お部屋でおやすみしてるよ」
「えー……パパ、かわいそう」
リビングの隣、引き戸の向こう側――
そこには、寝室に隔離された颯斗が、静かに寝ている。
体温計の数字は38.4℃。
ママが朝一番に測った時より、少しだけ上がっていた。
ふだんなら、娘を抱っこして「おはよう〜」ってやってくれる人が、今はベッドに潜ったまま。
さすがに今日は甘えに行けない。
「……パパ、ひとりでさみしくない?」
娘がぽつりとつぶやく。
「さみしいと思う。でもね、風邪がうつらないように、今日はちょっとだけパパにはひとりで頑張ってもらおうね」
「うつったら……ママが大変?」
「そう、だからママも頑張るよ」
そう言ってママは、使い捨てマスクをしっかりつけ直して、寝室のドアをそっと開けた。
スポーツドリンクと冷えピタ、ゼリー飲料を持って、颯斗のそばへ。
「……ごめんね、熱、下がらない」
かすれた声で謝る颯斗に、ママはすぐ「謝ることじゃないでしょ」と笑う。
「ひとまず今日1日、しっかり寝てて。何かあったらすぐLINEして」
「……うん、ありがと……△△、大丈夫?」
「ちょっとしょんぼりしてるけど、わかってる。パパにうつさないようにって」
「えらいな……」
颯斗がふっと笑ったとき、ドアのすき間から、小さな足音が聞こえた。
「……パパ」
「ダメだよ〜って言ったじゃん」
ママがあわてて止めようとすると、娘はドア越しに手紙を差し出した。
お絵描き帳に描いた、パパとママと自分の似顔絵。お布団の中にパパがいて、娘が「だいじょうぶ?」って言ってる絵だった。
「パパに……とどけて」
ママが受け取って、そっとベッド脇に置く。
「ありがと、パパきっと元気になるね」
⸻
お昼、ママはお子と一緒にクッキーを焼いた。
「パパ、たべられないけど……つくるの」
そう言って張り切る娘の姿に、ママも少しほっとする。
ベッドで寝ている颯斗には、熱冷ましのゼリーとクッキーの香りが届いたかもしれない。
ママは夕方、寝室のドア越しに話しかけた 。
「夜ごはんはおかゆにしといたよ。起きられたらLINEちょうだい。無理はだめ」
「……ありがとう」
颯斗の声は弱々しかったけど、どこか安心していた。
⸻
その夜。
娘はママの腕の中で、「パパ……よくなるかな」とつぶやいた。
ママはぎゅっと抱きしめて、囁いた。
「きっとね、あしたには、少し笑えるよ」
「……ほんと?」
「ほんと。だって、あなたの絵、すっごく優しかったから」
⸻
颯斗の部屋の枕元には、今もその絵が置いてある。
娘が、風邪をうつさないように、必死でこらえた1日。
ママが、全部を包み込んで乗り越えた1日。
高尾家の小さなピンチは、静かに、でもあたたかく過ぎていった。
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