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うわー!!次楽しみにしてます!🔥
あれから、俺はさりげなくクロノアさんを避けることにした。
勘のいい彼に気付かれない程度に。
まずは2人で会う頻度を減らした。
そこまでの頻度ではなかったけど、疑われない程度に回数を減らした。
全く無くすと変に思われるから。
「トラゾー」
「?はい?」
「…なんかあった?」
変に思われない為にもこうやって部屋に招くのだけど。
急に話を切り出してきて内心、どきりとした。
「、ぇっと、なにかとは…?」
じっと俺のことを見る翡翠色に目を逸らしたくなった。
やっぱりそろそろおかしいと思い始めてのだろうか。
「俺になにか隠してることない?」
冷や汗が背中を伝う。
「、隠してること、ですか……いやいや、俺がクロノアさんにそんなことできるわけないじゃないですか」
手を振って否定すると訝しむ顔をしてくる。
「ホントに…?」
「ほ、ホントです」
「体調悪いのに無理してるとかないよね」
「そ、れはないです」
「……」
じぃっと見られる。
「…ほんとに?」
「ほん、とです…」
「……ほんと?」
「、ゔ…」
痛くなるほどの視線に耐えかねた俺は白状することにした。
「……ほ、ほんとはちょっと熱があります…」
朝から少し体が怠いし頭が痛いと思って熱を測ると微熱があった。
無理を通していたら、ちょっと悪化してしまったのだが。
クロノアさんと会うのはやっぱ嬉しくて、無理をしてでも直接会いたかった。
いけないことだと分かってるのに。
ぐるぐると考えていると俺の目の前に影が落ちる。
すっとおでこにクロノアさんの手が当てられたのだ。
「っ、!」
ひんやりとしたその冷たさに驚いたと同時に咄嗟に体を離す。
「…ちょっとじゃない、すごい熱いよ」
「ぁ、え…?」
避けたことに関してクロノアさんは何も言わず、とりあえず飲みかけていた水を渡してきた。
「色々買ってくるから、ちゃんとベッドで寝てな」
ぽんぽんと頭を撫でられて、部屋を出て行ったクロノアさん。
それは避けることはできなかった。
パタンと閉まるドアを見て体から一気に力が抜ける。
「……っ…、」
不自然に思っただろう。
あんな避け方したことなかったから。
理由も思ったより手が冷たかったんです、じゃ通らなさそうだ。
一瞬、傷付いた顔をしたクロノアさんになんてことをしてしまったと後悔する。
離れなきゃいけないと分かってるのに離れることができない。
いっそのことこのまま嫌われてしまえたらと思うのに、それは怖くてできない。
嫌われるのは、どうしても嫌だ。
そう思っていると体は鉛のように重くなっていき、寝室に行くのも億劫でソファーに寄りかかるようにして目を閉じる。
こうやって目を閉じる度に、クロノアさんと想像の中だけの女の人が笑い合ってる姿が浮かぶ。
そのせいで寝不足でもあった。
「……好きです、」
そう言えたらどんなにいいことか。
意識はどんどんと沈んでいき、泥にはまるようにして俺は眠りに落ちた。
────────────、
ふと意識が戻る。
おでこがひんやりしていて、冷却シートが貼られているのが分かった。
「(ここは…寝室…?)」
横を見ればクロノアさんの後ろ姿があって、ソファーで寝落ちしたはずの俺はきちんとベッドに寝ていた。
「(クロノアさんが運んでくれたのか…?)」
意識のない人間の重さは知ってるけど、よく俺を運べたなと的外れな感心をする。
そんな彼は誰かと話をしているのか耳にはスマホが当てられていた。
「…から、と………は…分の………って、…かってない」
「…?」
意識が朦朧としてるし、小声で話す彼の声は言葉は聞き取れない。
「そ…なこと……るわ…な…だろ」
剣のある言い方に通話の相手がたじろいだのだろう。
「俺は…んな…りか……し…ない」
見るに見かねて声を出す。
「…くろのあさん…?」
出した声は寝起きのせいで掠れて小さいけどちゃんと聞き取ったクロノアさんが振り向く。
スマホを下ろして俺の方を見て驚いた彼はすぐにいつものように穏やかに笑い直した。
「起きた?ダメだろ、ちゃんとベッドで寝てなって俺言ったじゃん」
「ごめんなさい…思ったより、体動かなくて…」
起きあがろうとする俺を制してスマホの相手に切るねと言って通話を終えていた。
「いいよ。それよりこれ飲みな」
某有名な経口補水液を渡される。
「少しずつ飲むんだよ」
今度はクロノアさんにゆっくりを体を起こされてコップに注がれたものを渡された。
「ありがとうございます…。クロノアさんは優しいですね…」
「誰にでもじゃないよ」
ちびちびと補水液を飲む。
体に染み渡る水分にほっと息を吐く。
「じゃあ、俺は特別ってわけだ。ふふ、嬉しい…」
「…そうだよ、トラゾーは特別」
コップを持ってない手を握られる。
熱が高いのかクロノアさんのひんやりした手が気持ちいい。
今はこの手を振り解きたくなくてそのままにする、ずるい俺がいた。
「えぇ…?そう言いつつ、他の人にも言ってるんでしょー…モテ男は違いますねぇ」
呆ける頭でありもしないことを言う。
「言わないよ。俺がそんな軽薄な男に見える?」
心外だと言わんばかりにむっとするクロノアさんにくすくす笑う。
「ふふっ、冗談です。クロノアさんは、そういう人をとても大切にしそうですもん…大好きな人は裏切らないの、ちゃんと分かってますよ」
「当たり前だよ。好きな人泣かせたくないし、傷付けたくないから」
握られる手に力が微かに込められた。
「クロノアさん…?」
「トラゾーはそのまま、俺のことを信じててくれる?」
「信じるも何も、クロノアさんを疑ったことなんて一度もありませんよ…?」
これは本当に思ってることだ。
信用も信頼もしてる。
好きな人だという贔屓目なしにしても。
「…、そっか」
握られていた手が離される。
それを名残惜しく感じつつも、言うことができない。
言っちゃいけない。
「?変なクロノアさん」
「体調不良のトラゾーはいい子で寝てなさい」
持っていたコップをそっと取られて再び寝かされる。
「今日はずっと傍にいるから、寝てたらいいよ」
「ふは、…それは安心ですね」
「……安心かどうかは分からないけど」
「ん…?」
「ううん、何でもないよ」
表情を切り替えたクロノアさんの言った意味がよく分からず疑問符を浮かべる。
「トラゾーはとにかく寝る。またぺいんとたちに怒られるよ?」
目の前でぶっ倒れたことを未だに言われる。
無理して体調悪いのを隠しててもすぐにバレてしまうのは長い付き合いの賜物なのか。
「我慢したり、無理はしちゃダメだよ。心配かけるのも程々にね」
一定のリズムで胸の辺りを優しく叩かれる。
母親が子供を寝かしつけるかのように。
「おれ、こどもじゃないです…」
「とか言いつつ眠そうな顔してるよ」
「うぅ…」
瞼がまたおりてくる。
さっきと違ってふわふわと心地の良い感じで。
「みんなトラゾーのこと好きなんだから、急に倒れたりして俺らの心臓が止まりそうになることはやめてよ」
クロノアさんは、ポンポンとリズムを変えずそう言う。
「おれも、みんなのことすきです…」
「うん、」
「あと、たおれるのは、きをつけます…」
「ホントかなぁ…」
殆ど閉じかけた目を無理やりこじ開けてクロノアさんを見上げる。
「くろのあさん」
「ん?」
「…っ、ありがとう、ございます…」
思わず好きですと言いかけて、必死に理性で抑え込み言葉を変える。
「いいえ、どういたしました」
優しく笑うこの顔を今だけは独り占めできてることが嬉しくて力の抜けた顔で笑い返す。
「あと、…おやすみなさい…」
「…おやすみ」
ふっと視界は暗くなり、ぬるま湯に沈むような心地よい感覚。
そして、眠りに落ちる寸前でおでこに触れるなにか。
冷却シートでも貼り替えてくれてるのだろうかと思いつつ、完全に俺は眠りに落ちた。