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『トラゾー』


「んぁ?どしたぺいんと」


みんなとゲーム中に個人チャットで通話を分けてほしいと打たれた。


『俺とトラゾーちょっと抜けるなー』


何事かと思いながらも通話を分けてぺいんとに声をかける。


「んで?どした」


『お前クロノアさんとなんかあった?』


「…っ、なにかって…?」


いきなり聞いてこられデジャブを感じていた。


『最近、クロノアさんと2人で会うの減ってんじゃん』


「、…え、あー…ほら、俺最近個人チャンネルの方も頑張ってるからさ、その編集とかで忙しくて」


慌てて捻り出した嘘。


『……隠してることねぇよな』


少しの沈黙の後、ぺいんとの低い声。

何かを探ろうとしている声だ。


「隠してることって…クロノアさんとおんなじこと聞くなぁ…。ないよ、俺はクロノアさんやぺいんとたちに隠し事なんてしない」


画面に情けない表情の俺が薄っすらと映る。


『嘘つけ、体調悪いのすぐ隠すくせに』


「ぐっ…」


即座に言い返されてぐうの音も出ない。


『熱出してても配信続ける奴が何言ってんだよ』


「それは、ごめん…」


『…ホントに隠し事してないんだな』


「誓って」


『嘘ついたらクロノアさんに言いつけるからな』


「あそれはやめて」


怒ると怖いんだからあの人。


『トラゾー』


「だからごめんて。頼むからクロノアさんには言わな…『逃げるなよ』…逃げ…?クロノアさんから?え、何あの人追いかけてくんの」


『…遠からず近からず、だな。ま、とにかくそーゆうこと。さゲーム戻ろうぜ!』


元のいつものような元気な声に戻って個人通話も切られた。


「えー…足には自信あるけど、怖くて逃げれんかもな…」


そう呟きながら、ゲーム画面に戻り再開した。

さっきの会話なんてなかったかの如く、ぺいんとはいつも通りで、俺はと言うといつも以上に足を引っ張る羽目になっていた。





───────────────、





クロノアさんとの距離の保ち方が段々と苦しくなってきた頃、珍しい人から電話がかかってきた。


「え?らっだぁさん?」


通話に切り替えてスマホを耳に当てる。


『もしもーし。やっほートラー』


「こんにちはらっだぁさん。俺に電話なんて珍しいですね、どうしたんですか?」


『実はさ、トラに言いたいことがあって』


「俺にですか?」


『俺と付き合ってくれね?』


付き合う?

付き合う…?


「えっと、どこに…?買い物ですか?」


『トラならそう言うと思ったわ。買い物とかそんなんじゃなくて、恋人になんない?ってこと』


「……へ?」


突然のことすぎて何を言われているか理解が追いつかなかった。


『俺、トラのこと好きなんだよ。恋愛として』


「!!」


いつもより真剣な声にどきりとした。

何故かどこかで聞いたことがあるようなセリフに。


『トラがノアのこと好きなんは知ってるよ。けど、俺は…』


「ちょちょちょ…っ、待ってくださいっ!」


『ん?』


「なんで、知って…」


『見てたら分かるよ。それに、ノアだって…』


「ま、さか…」


クロノアさんにも俺の気持ち知られている?

そう思って顔が青褪めていく。


『……トラ?』


どうしよう、俺がそんな感情向けてるなんて知られていたら。


「らっだぁさ…」


『大丈夫か?』


もしかしたら、これはいい機会なのかもしれない。

クロノアさんのことを諦める。

いや、ダメだ。

そんなことにらっだぁさんを利用するなんて最低なことしちゃいけない。


『トラ、返事欲しいな』


「っ、あ…その…ッ」


そんな不純な動機でらっだぁさんに付き合うなんてダメだ。

不誠実にも程がある。


でも、もしかしたら付き合っているうちに好きになるかもしれない。


ゆらゆらと俺の中の天秤が揺れていた。


「ぁ、の…とりあえずは、友達からというのは…」


搾り出した声で必死に考えた言葉を伝える。


『え?俺らもうマブダチじゃん。それともやっぱノアのことでダメなんか?』


「ぅ、」


俺の想いはクロノアさんにとって邪魔になる。

幸せになろうとしている妨げになってしまう。


『俺のこと利用する感じがするから無理って感じ?』


「っ…」


『いいよ。利用しても、そのうち好きになってもらえんなら万々歳だし』


優しい声が彼と重なる。


「ぁ、…っと…」


困惑してるのがらっだぁさんに伝わったのだろう。

画面の向こうで苦笑している。


『……いや、ごめん。俺もせっつきすぎたな。ゆっくり考えてまた答えくれたらいいよ』


「…っ、あのッ」


『うん?』


「…と、とりあえず、ちょっと、待ってください…っ」


『うん、いつでもいいよ。俺待ってるから』


穏やかな笑い方も似ていた。


『急な電話ごめんな?それ言いたかっただけだから。んじゃまたゲーム一緒にしよーな』


「!、ぇ、あ、はい」


そこで通話は切れた。

しばらくスマホを眺めていた。



『俺、トラのこと好きなんだよ。恋愛として』



思い出して顔に熱が集まる。

誰しも好意を寄せられれば、喜ばしいことではある。


でも、どうしてもすとんと胸には落ちてはくれなかった。


「……」



──好きだよ、誰よりも。

──俺と一緒にいて欲しい。



「……?」


どこで聞いたのか分からない。

なのに、すごく嬉しく思った記憶が微かにある。


困惑していると再び電話がかかってきた。


「わっ」


やっぱりすぐに返事がほしいとらっだぁさんがかけてきたのだろうかと画面を見返す。

表示された名前に、出ようとしていた手が止まる。


「…クロノ、アさん…」


鳴り続ける音。

どうしても動いてくれない俺の指。


「……」


出るまで鳴らし続けるのだろう。

音は止まらない。


「っっ…」


諦めて出ようかとした時、らっだぁさんの言葉がよぎった。

いいよ、利用しても、という言葉。


はくはくと浅い息をして、肩が揺れる。


「……ごめんなさい、クロノアさん、…らっだぁさん」


スマホを伏せ、顔を逸らす。


5分ほど鳴っていたスマホはぴたりと止まった。

どうやら諦めたようだ。


「ごめんなさい…本当に、ごめんなさい…ッ」


バカで単純で最低な俺を誰も許さないで欲しい。


鳴り止んだスマホを手に取り、通知を見なかったことにする。

俺はそっと通話の一つ前の履歴に指を伸ばした。


小数点第一位の行方

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