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✧≡≡ FILE_022: 原子力 ≡≡✧
──それから俺は、暗闇の底から、引き上げられるようにして目を覚ました。
消毒液の匂い。
乾いたシーツの感触。
天井の白さが刺すように眩しくて、すぐに目を閉じた。
体が動かない。
腕も、足も、まるで自分のものじゃなかった。
呼吸をするたびに胸が痛む。肺の奥が焼けるようだった。
誰かの声がした。
「意識戻りました」と。
“戻った”のだと理解した瞬間、次の言葉が落とされた。
──事故発生から数時間後。
俺は重度の急性被曝で生死の境目にいたこと。
迅速な治療が行われても、間に合わなかったこと。
そして最後に。
“父が、自分の臓器を提供した”──
その事実だけが決定的な形で胸に刺さった。
家に帰らない父。
研究ばかりで俺を見ようとしなかった父。
あの日も怒りのまま家を飛び出す俺を追いかけては来なかった父。
その父が──俺ひとりを助けるために、生きられる可能性をすべて差し出した。
“原子力”という言葉そのものが、母の死と、父の犠牲と、幼い俺の痛みを象徴する呪いになった。
忌むべきもの。
消すべきもの。
存在してはならないもの。
事故から回復する過程で、俺はニュースも専門家の会見も嫌というほど見せられた。
「これは想定外だった」「管理体制に問題があった」「二度と同じ悲劇を繰り返さないために」──
どれもこれも、俺には空虚にしか聞こえなかった。
誰も、俺の母を返してくれなかった。
誰も、父の死を引き受けてくれなかった。
原子力発電所は、ただ立っているだけで、人の人生を一瞬で壊せる“兵器”だ。
──ならば。
この兵器を“前提”にしている世界そのものを変えなければならない。
その答えに辿り着くまでに、長い年月は必要なかった。
原発をなくすための技術を作る。
この世界から“必要だから残されている危険”を消し去る。そのために、人類がまだ見たことのない金属を創る──
その理念に最も近い研究をしていたのが、ヴォクスホロウ研究所だった。
──ルミライトはただの金属じゃない。
原発を不要にし、エネルギーの構造を根本から塗り替えるための鍵だ。
この金属さえ完成すれば、世界は変わる。
俺の母が死んだ理由も、父が犠牲になった構造も、“必要悪”として残されている原発も──すべて歴史の外側に追いやれる。
だから俺は、今ここにいる。
キルシュ・ワイミーのもとで、ルミライトの完成を目指している。
母と父を奪った巨大な構造を、俺の手で終わらせるために。