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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「ちょこまかとッ!!大人しく当たりやがれオッサンがァ!!」


「僕はまだオッサンに入る年頃じゃないよ、八咫くん」


深夜、住宅街から遠く離れた地点にある広大なテニスコートで男二人組の声が響き渡る。

片方は大声を出しながら襲い掛かり、もう片方は片手で携帯電話(いかにも古そうなガラケー)を触りながら。

この場所は街で結構有名な心霊スポットという事もあり、人通りが少ない。お陰で本気の戦闘をしてもバレる事がないのだ。

それに幽霊なら先程、深町が話し合って成仏させた。苦しまず、そして天国へ行けるように『物語』に干渉した 。


「―――待った、八咫くん。鷹羽の最期も一応話しておいた方が良いと思うよ」


「あ?あァ……いや、俺に言われても困る……俺が意識して”物語”の文を創ってる訳じゃねェしな……」


「……そうだったね、すまない。 【今から俺は、鷹羽との戦いの最期について話そう】」


私立浜原学園の構内(中庭)で俺と鷹羽は殺し合い、俺の勝利で決着がついた。

しかしその後、鷹羽から情報を聞き出そうとした瞬間、鷹羽は自らの能力で自害の道を選んだのだ。

俺は鷹羽の遺体を影に入れ、深町の『物語干渉』で学園内の生徒にバレる事無く脱出した。

学園での鷹羽は転校扱いとなり、それが原因で学園内の多くの男子生徒が無断欠席と早退してしまった。それほど鷹羽は男子生徒から人気があったらしい。

そして、不覚にも腕二本を無くしてしまった俺は 深町の『物語干渉』で腕を元の姿に戻し、現在に至る。


「オルァッ!!死ねェ!! 」


風見の手下である”鷹羽 成花”の戦いから丸二日。

一瞬とは言え、鷹羽からダメージを貰った 俺は深町と共に互いの能力と膂力を高め合う為に殴り合っているという訳だ。

それに、深町の言っていた『能力の覚醒』の条件も知らなければならない。

俺の能力とその発動条件+覚醒条件。 それらを風見との戦闘の前に開花させ、更なる力を得る。


「どうだァ!?オッサン、”物語”の内容から俺の能力について何か情報は入手出来たか!?」


「―――残念ながら、発動条件と覚醒条件は”物語”自身も知らないようだ」


「クソがァァアア!! 」


「仕方の無い事だが、小さな事からコツコツと探して行くしかないのかもしれないね」


余裕そうに喋る深町に『岩融』が迫る。

生身の人間が『岩融』の攻撃を喰らえば、それこそひとたまりもない。しかし、深町は軽々と持っていたテニスラケットで弾き、そのまま俺の肩目掛けて蹴りを入れる。

寸前で『岩融』の持ち手で防いだが、想像以上の衝撃が手に響く。

俺は再び深町に飛びかかり、今度は避けきれない攻撃をお見舞いする。 と思っていた瞬間、 深町は突然立ち止まり、回避体制を解いたのだ。

『岩融』が深町の胴を真っ二つに斬り裂く手前で、刀身をピタッと停止させる。

一体なんのつもりだ。と、俺が言うより先に、深町が喋る。


「………八咫くん、さっきから無駄な行動が多い。例えばその『岩融』の振る回数、目線の移動、瞬きの回数に歩く速度…とかね」


「………ずっと喋って携帯触ってた割には結構良く見えんじゃねェか」


「はは、僕は八咫くんの補助官だからね。いついかなる時でもしっかり視て強く鍛え上げないと」


「そりゃどォもッ!!」


俺のつま先が地面を抉り、陸上選手並の速さで深町に斬り掛かる。テニスコートの白線が乱れ、俺と深町の戦闘の爪痕を残した。

本当は公共の施設の一部であるこの場所だが、そんなのお構い無しで周囲の物を破壊しながら進み続ける。


「どォした!!反撃してみっ………!!」


そんな俺を他所に、突然、携帯電話を地面に落とし、驚いた顔をしながら下を見つめていた。先程の笑顔は消いつの間にか消え、不穏な空気が漂う。


「………これは…本当なのか? 」


訳が分からない。 突然俺にダメ出ししたかと思えば、携帯電話を落として頭を抱えている。

訳が分からない――― が、取り敢えず攻撃は中止しなければならない。

俺は全身を利用して速度を落とし、振る寸前の拳を地面へと叩きつける。深町と俺の足元に大きな亀裂が入り、ボロボロだったテニスコートが更に崩壊した。


「どォしたンだ、オッサン」


俺の問い掛けに対して、深町は何も答えない。

落とした携帯電話を眺め続け、ブツブツと何か言っている。その声が小さくて内容が全く聞き取れないが、表情から察するに、相当の衝撃を受けたのだろう。


「……はは、こんな時に” 物語 ”が進化するとはね。物語の進行状態しか見れなかったのに、一瞬だけど視えた。この先に起こる事とその結末が………!! 」


携帯電話を拾い上げ、深町は大きく笑う。

内容は理解出来ても、その状況がよく理解出来なかった俺は、正直言って少しだけ恐怖を感じた。


「――― すまない八咫くん、時間だ。風見 結花が率いる『【魔術師側の一派と思わしき人物と東京都の新宿で戦うとは】』と君の” 物語 “が語った」


恐らく、それが先程の深町が言っていた『物語干渉』の進化の内容。 未来視――― とまでは行かないが、それに近しい能力に進化したのだろう。

と言っても、深町が視る事が出来るのはその時の映像では無く、物語の『文章』のみ。


「それと” 物語 ”の更新が途切れた。……もっと簡単に言うと、この先の物語。恐らく魔術師との戦闘で君は」


深町は間髪入れずに続けて言う。


「――― 君は死ぬ」









「待つんだ、八咫くん。まだ正確な情報が手に入ってない、ここで戦いに行くのは無謀だと僕は思うよ。もう少し、戦いに慣れてから………」


「無謀と愚策もクソもあるかよ。

――― 俺は今すぐにでも風見について知ってるやつをぶっ殺して聞き出さなきゃいけねェんだ 」


「………さっきも言っただろう?今のままじゃ確実に殺されるし、なにより物語の先が読めない以上、僕に出来ることは無い」


「そンなの知ったこっちゃねェ。それにオッサンの能力があってしても対抗出来ねェなら、尚更足掻くしか方法は残されてない」


重い金属音と同時に、俺は目の前を塞ぐフェンスを『岩融』でぶった斬る。

錆びていたと言うのもあってか、鉄で出来ていたフェンスはいとも簡単に斬られ、大きな出口を作り出した。


「………ははっ、確かに言われてみればそれもそうだ。残された選択肢は一つしかない、ならその選択肢を必死に進んでみれば、何か変わるかもしれない」


「で、勿論オッサンも一緒に来るンだよな?」


「――― そうだね、僕は君の補助役だ。同行しない理由は無いね」


「決まりだな」


「………とその前に、八咫くん。これだけは絶対に守って欲しい約束があるんだ」


閉じていた携帯電話をパカッと再び開き、素早く何かを入力して行く。 数秒後にはピタっと手を止め、画面をこちらに向けて、続けて言う。


「” 物語 ”の視点が、君から相手に移った場合は速攻でその場を離脱する事。もしくは現時点の最高火力を以って相手を抹消する事」


「………どォいうこった。視点が移るなんて事が本当にあンのか?」


「物語の視点が移るのは、その物語の主人公の視点が見れなくなると言う事。主人公が死ぬと分かった物語は、容赦なく別の視点を求める」


「なンか難しい話になりそうだな。……って待て、死ぬ事が分かったなら逃げても意味が無ェンじゃ?」


逃げた所で視点が他人に移ってしまった以上、俺の死ぬ未来はその場で確定しまうのでは無いのか。

そんな疑問がふと頭をよぎったが………、


「っても良く分かンねェのには変わらん!!取り敢えず、視点が移る前に敵を殺して帰れば良いって事だろ?!」


「………まぁ、そうだね」


そうだ、簡単な話だ。

例え何が起ころうと、知ったこっちゃない。敵を倒せば全て丸く収まる。万事解決。


「じゃァ、行くとするか!!」


喝を入れたと同時に、俺と深町はその場を去る。抉れた地面と真っ二つに割れたフェンス以外の痕跡を残さず。

―――次の相手は名も知らぬ魔術師。決戦の場は東京都新宿区。 どんな魔術師なのか、なぜ新宿なのか。

サッパリ分からないが、取り敢えず向かうことにした。 交通機関を全く使わず、己の足のみで200km離れた地点へと走り続ける。

その途中で深町に小言を言われたが、全スルー。悪いな深町、俺は小さい事は嫌いなタチなんでな。


「………やれやれ、手のかかる妖術師だね」






東京都新宿区に向けて、多数の鴉が飛び立っている。 下手すれば空一面を覆ってしまう程の数。

何か良くない事が起きるに違いない。


「………忌々しい妖術師風情が」


次の標的を見つけるや否や、颯爽と現場へと向かう。例え邪魔されようと狙っていた獲物を狩る、鴉のように。

それがあの妖術師、八咫 匯。風見 結花が倒すべき、敵である。


「『傀儡雪下』」


足場を確保する為に、能力を使って空気を固定。それを何度も繰り返して空中歩行を行う。

空気の翼を生成して空を飛ぶことも出来るが、羽一枚一枚を作るのに多大な魔力を要する。

故に、一番魔力を使わずに素早く移動出来るのはこの方法しかない。魔術師らしくないのは本人が一番自覚している。


「前回の様には行かない。例え複製体であっても、本来の私と同じ性能を引き出せるはず」


その人形に想いは無い。その人形におもいも無い。 ただ有るのは、八咫 匯に対する殺意のみ。

誰もいない森の中を次々と走り抜け、風見は八咫と同じ様に、新宿区へと向かった。


【しかし、八咫と風見が新宿区で合う事は無かった】

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