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阿炎快空
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#ダークファンタジー
阿炎快空
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阿炎快空
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由宇は、廊下を歩いていた。
(ここは、学校……?何でここにいるんだっけ……?)
由宇はぼんやりとした頭で、自分の記憶を辿った。
(そうだ……先生の手伝いで、職員室までプリントを届けに行ってたんだ……)
廊下の窓から見える夕焼け空は、血のように真っ赤だった。
用事も済んだし、暗くなる前に帰ろう。
由宇は、教室に入ろうとした。
扉は開いていた。
教室ではちょうど、数人の男子が修を取り囲んでいるところだった。
修以外の男子は皆、両目の部分も口になっていた。
「修さー、椎名とめっちゃ仲良いじゃん」
「そうそう、よく二人で話してるしさ」
「修って、あーいう男女が好きなわけ?」
「でもさ、お似合いじゃね?こいつ、運動とか全然ダメで、女みてえだし」
「あ、たしかに!」
「何?結婚すんの、結婚」
修が叫んだ。
「やめろよ!全然好きじゃないよ、あんなやつ!」
その直後——修がこちらを振り返った。
修のハッとした表情に、他の男子も由宇の存在に気が付く。
「——だってよ、椎名」
お調子者の男子が、三つの口でニヤニヤ笑いながら言った。
由宇は無言のまま荷物を取り、教室を後にした。
足早に、つかつかと廊下を歩く。
滲む涙を、誰にも見られたくなかった。
その一方で、修に、後を追って来てほしい気持ちも僅かにあった。
だが、そんなことは起こらないだろう。
あの時もそうだったのだから。
由宇は、この世界が自身の夢であることを頭の片隅で理解し始めていた。
しかしもう、そんなことはどうだっていい。
今はただ、一人になれる場所に行きたかった。
「由宇!」
僕は叫びながら、すぐさま由宇の後を追って教室を飛び出した。
しかし——そこに既に、由宇の姿はなかった。
そんな馬鹿な。
仮に廊下に出てすぐに猛ダッシュしたところで、こんなに早く姿を消せるわけがない。
僕は焦りつつも、由宇が去っていったと思われる方向へ走り出した。
しばらく進むと、左手に階段が現れた。
もしも由宇が学校を出て行こうとしているのだとしたら、向かう先は下駄箱だろう。
ということは——下か?
階段を駆け降りながら、先ほどの自分の言葉を思い出して歯噛みした。
——全然好きじゃないよ、あんなやつ!
畜生。
僕は決して、あんなことを言いたくは——
「へえ、言いたくなかったの?」
僕は足を止めた。
声のした方を見る。
踊り場に設置してある大鏡の中に、そいつは居た。
僕だ。
鏡の中の僕は、じっと僕を見つめていた。
「じゃあ、何であんなこと言ったの?」
「あれは——口が、勝手に動いて——」
僕の言葉を、僕が遮る。
「いいや。あれは確かに君が、自分の意思で言った言葉だ。三年前に、その口で」
「そ、それは……」
「そして君はあの時、彼女を追いかけなかった。同級生の目があったからだ」
「……」
「君は彼女の心配よりも、自分の保身を優先したんだ。今更過去を変えようとするなよ」
「……そうだね、君の言う通りだ」
僕は、俯いて呟いた。
「僕は臆病者で、卑怯者だ。どれだけ勇気を振り絞っても、いつも肝心なところで足がすくむ。自分が本当に嫌になる」
でも——と、僕は顔をあげて、僕を見つめた。
「それが今、彼女を追わない理由にはならないよ」
「……言っておくけど、これは夢だよ。行ったところで、どのみち過去は——」
「わかってる。僕が迎えに行くのは、今の彼女だ。確かに過去は変えられないけど——未来までは、諦めたくない」
「……言うことだけは立派だな」
「うん、ごめん」
「僕に謝れてもな」
「うん、わかってる」
「わかってんなら、それでいい」
フン、と鼻を鳴らして僕が言う。
と、その時だった。
どこからか、微かに歌声が聴こえてきた。
僕は耳を澄ました。
か細く、寂しい、儚げな歌声。
少し前にやっていた、男性アイドルが主演の青春映画の主題歌。
愛がどうとか、君がどうとか、そんな歌詞のやつだ。
歌声はどうやら、上の方から聴こえてくるようだった。
「ほら、とっとと行けよ。彼女が待ってる」
「うん」
僕は鏡の中の、僕より少し小さな僕を見下ろして頷いた。
いつの間にか、僕の体は中学生に戻っていた。
僕は頷き、キッと上を見上げた。
「——頑張れよ」
小学生の僕の声が、階段を駆け上る僕の背中を押した。
由宇は校舎の屋上の、給水タンクの上に腰掛けていた。
溢れてきた涙を拭いて、空を見上げる。
自分を元気づけるため、由宇は歌を口ずさんだ。
少し前に、映画の主題歌にもなっていた曲——由宇の好きな、男性アイドルユニットの曲だ。
曲をラストのサビまで歌い切った時、
「——相変わらず上手だね。君は恥ずかしがり屋だから、僕の前くらいでしか歌わなかったけど」
幼い男の子の声——魔女の棲家に幽閉されていた時、由宇に助言をくれたのと同じ声だった。
由宇は後ろを振り返った。
そこには、真っ赤なマントをなびかせ、腰には剣を携えた白猫が立っていた。
その瞬間——由宇は、全てを思い出した。
「……にゃははうぺー」
「やっと思い出してくれたんだね」
にゃははうぺーはそう言って、にっこりと笑った。
コメント
1件
**第65話「歌」、読了。** 修が鏡の中の過去の自分と向き合うシーン、めちゃくちゃグッときたわ。「未来までは諦めたくない」って言葉に、あの時できなかった後悔をちゃんと乗り越えようとしてるのが伝わってきて……。由宇の歌声がきっかけで記憶が戻るラストも、にゃははうぺーの登場で一気に物語が動き出した感じがして鳥肌立った。この先、二人がどう向き合うのか、続きが気になる🔥