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のび太は泣いた。今日もジャイアンとスネ夫に虐められる日々、空き地の土管の中で寒々しい夜を過ごしていた。同じクラスのマドンナ、しずかちゃんが晩御飯のおかずを取り置きしてくれた……僕って弱いな。
「ノロマでドジで人生生きていて良い事なんて一つも無い」
しずかちゃんは頼もしく見えた、女の子に慰められて悔しくないの? 辺りの家に照明の電気が灯る……ボロボロの日々ー
「明日も学校でしょ? 先生に言うから」
「う……ううっ」
ママとパパが迎えてくれた反省の我が家……もう嫌だ。部屋に閉じこもって勉強しようにも頭が集中できない低能な証拠。
「僕の人生って何なんだろう」
「大器晩成、石の上にも三年。新世界は一日にして成らず……千里の道も一歩から」
「?」
机が開きまん丸のお月様のした青タヌキが一匹。可愛いマスコット・キャラクターは数本の髭を揺らして二頭身の図体のまま床に座った。誰? 引き出しの中は時空が歪みタイムマシンの乗り物がスタンバイされている……
「さあ、総てをボクに委ねておいで」
眼鏡を掛け直しパジャマ姿のまま飛び込んだ世界の先はSF(少し不思議)な亜空間、何だコイツ。
「申し遅れました、ボクドラえもん。君の悲惨な運命を救いに来た未来の伝道師だよ。良いモノ見せてあげる……野比のび太君」
「新手の人さらい? ママ助けてー!!」
ドラえもんは目の前のスイッチとレバーを引いて器用に操縦する。10年後、昭和の良き時代から“平成”の新時代へと待ち焦がれる想いをひしひしと語っている……信用していいものか? マシンが止まり真横から出口が現れた。
「着いた、ここが君と新嫁の家さ。こんにちはー!」
??
「のび太君。君にも愛すべき妻が有るんだよ、平日の会社勤めの時間かな」
結婚するの、僕が? 相手はもしかして……しずかちゃん!?
「これが結婚披露宴の写真だよ。綺麗な奥さんだろう?」
剛田ジャイ子。大人びた僕の隣で厚化粧で笑っている……
「帰れ、二度と話しかけて来るな!!」
彼はしぶしぶ部屋を出て行った。残されたのび太。1階から赤ちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえる、僕の子供!? リビングの居間がぬいぐるみで溢れ返っていた……新聞の朝刊は平成9年8月10日と書かれている、平日の真っ昼間!
「のびちゃん。仕事早引きしてセワシ君のお世話に来たの、おむつと離乳食よ」
「ママ! 皴の数で老けたって分かるな。パパは相変わらず平社員なの??」
イヤーー、変質者!! 警察呼ばなきゃ……細身で頼りなさげな強盗ね、セワシには指一本触れさせないわよ!!
「今に見てなさい、手錠のお縄掛けにパトカー来るわよ!」
戻って来たドラえもんが慌てて僕の手を摑む、風の様に過ぎ去った一部始終の大舞台劇はタイムマシンで強引にフェードアウトされる。現代にタイムスリップせねば!
「戻って来たよ。落ち着いて聞いて、ボクは未来の世界から君を救いに来たんだ、狸じゃなくて猫型ロボットさ」
「素直に頷ける訳無いだろう!! 今すぐハッピーエンドにしろ!!」
まあまあ。珍客が二人、セワシ!? 僕等の息子が布団の上に居座る。
「ジャイ子ちゃんが君に告白して美男美女のカップルと成るのさ。紛れも無い事実」
しずかちゃんと僕の信頼関係はどうなるの!? まさかクラスで1番の出木杉君と……
「うわあああ!! 死んでやる、誰も止めるな!!」
セワシが近未来のヘンテコな衣服で優しく抱きとめる。
「お父さん、ずっと一緒にイヨ?? 生きてるだけで幸せだろう、生命賛歌を知らないのかい」
ドラえもんはお腹の中の秘密道具を出したー
「今これからボク達の“友情”が確約される。難しい話は一切しないよ、助けてあげるから……タケコプター!」
僕の頭のてっぺんにピッタリくっついた、夜風が気持ち良く星空のアーチを描いている……ドラえもんとセワシは僕の手を取って真夜中の秘密の散歩へ赴いた。
「もう安心して。ボクが側に居るよ、君は弱虫の虐められっ子じゃない」
綺麗な風景が今にも落ちそうに僕等の頭上で見守っている、今日は学校の算数のテスト。憂鬱だなぁ……気が進まない。
「勉強なんて秘密道具でパパっと解決! 導いてあげるよ、ね? セワシ君」
「オイラはもっと未来の時間から来たんだ。それくらい御父さんでも分かるでしょ?」
「何だい、みんなで馬鹿にして。本当の話なんだろうな!?」
ドラえもんと僕等は小学校の裏山に座って望遠鏡を覗き込む、綺麗な☆が胸いっぱいに広がるー
「大人になったら忘れちゃうのかな。この思い出も」
「大丈夫。全部ボクに任せて、ここから君の逆転劇が始まるんだ……失敗は何度でもやり直せば良い」
セワシが僕の呆然とする横顔を眺めていた、スマートな腕時計は深夜0時00分ジャスト!
「もう帰ろうよドラえもん。パパが睡眠不足になっちゃう」
しずかちゃん……今日学校で会ったらどんな顔すればいいんだ。ジャイアンとスネ夫なんてボコボコにやっつけてやる!
「悩みの種は尽きないよ。これから中学、高校、大人になって会社で働かなきゃ……未来は変えられるの?」
「勿論さ。たった今、君の歴史が大きく動いたんだ。人生は長い舟旅だよ」
「もっとパパに合わせて言って。ビックリしてるんだ」
ドラえもんはポラロイドカメラで写真を撮った、アルバムの一ページへ加えよう。フフフ。
「何がおかしい! 詐欺師じゃないだろうな、うちはスネ夫や出木杉君よりビンボーなんだぞ」
「だから言っただろう、頭悪いな。ネジ外れてるのか!?」
ドラえもんが慌てふためいてフォローに入る、帰り道。セワシは一足早くタイムマシンに戻った……二人きりの夜。
「おやすみ」
秘密道具【ユメノマクラ】! 明晰夢を100%実現できるとっておきのお気に入り☆ 押し入れで彼の寝顔を眺めながら布団に入った、何もかも悪い現実……大丈夫、何も心配要らないよ。
朝!
目覚まし時計が鳴り踊る、日ざしの陽光が燦々と爽やかに全身に活を入れた。人生逆転劇スタート!
「パパ~今日の朝刊」
寝間着姿でトイレに長時間居座って居た……ママは?
「のびちゃん。テレビ欄しか見ないんでしょう? ねえドラちゃん」
「遅刻するよ、ホラ鞄と上履き」
食パンのトーストを一口、学校へ急げ! 行ってきまーす! 言葉が先か玄関のドアーが先か? ドラえもんの秘密道具の出番!
「もしもボックス」
言霊が本物に成る電話機……もしものび太君が算数のテストで100点満点を取ったら? 世界は変わる!
のび太は教室の席に着くなりジャイアンとスネ夫の立ち話に歩み寄る、ジャイアンが指を差した。
「ダッセー奴! 今回も0点の白紙なんだろ!? バーカ」
「止めなよ本当の事言うのは。身投げされたら溜まったもんじゃない、ねェしずかちゃん?」
出木杉君がプリントを取りに来た。雑談に熱が籠る!
「あんた達サイテー! どうする、満点取れたら!?」
「夢見過ぎなんだよアホ、地球が割れちまうぜ!!」
スネ夫が前髪を整えながら頬杖を突く、チャイムが鳴った。
「テスト開始!」
しずかちゃんの後ろからの視線が痛い……でも??
「分かる、分かるぞー! 目指せナンバーワン!!」
ホラね。ドラえもんがタケコプターで心配そうに窓の外から裏山で休んでいた、給食とママ特製の唐揚げ弁当を君に! まだかな? 本調子、イケる! テストが終わった……今日の僕は頭が冴えてるぞ。遅れて来たルーキーの天才児、ギフテッド!? 頭良いー♪
「のび太さん」
「大丈夫、バッチリさ。ドラえもんがいるからね」
ご機嫌のまま学校は終わり帰宅する! 唐揚げ弁当はママの最愛、運気上昇のツキが廻ってきた! 部屋では何の変哲もなくどら焼きを食べて寝転がってる最高の相棒!!
「コロコロコミック最高だね、宿題なんてパパっと終わらせな。しずかちゃん家に一緒に行くかい」
「君の秘密道具は一級品さ! 夢は叶うんだなぁ」
本棚の漫画本と六畳一間のワンルームのブレーメンの音楽隊のファンファーレが聞こえる、これが成功の秘訣☆
「これからもよろしくな! ありがとう」
「ボクの愛を受け取ってくれ。困ったらまた聞きな、1階でテレビでも見る? ママに報告するんだろう?」
ドラえもんのお腹のポケットには色々なアイテムが眠っている……頼もしい、さすが未来の猫型ロボット! 宿題が終わったら長電話のおしゃべりトークしよう、相手はもちろん。
「今夜はママのご馳走だね。ボクも料理手伝うよ、遊びに行くのかい? 空き地に集合だね」
ジャイアンもスネ夫も怖くない、ドラえもんが助けてくれるんだ。外では相変わらず三人の他愛も無い話。進歩がないね!
「生意気だな、のび太のくせに! 俺も家庭教師雇おうっかな」
「秘策があるに決まってるよ。神頼みでもして奉納したとか?」
しずかちゃんの怒り声が土管にこだました。
「いい加減人を妬むのを止めなさいよ! 虐められる気持ちも考えられないくせに、永遠に見下してなさい本当の負け組!! 大人になったら後悔するわよっ」
ジャイアンがスネ夫を一瞥して溜息を付く。
「あいつに幸せなんて似合わねェんだ、どうせインチキしたに決まってる!」
しずかちゃんの鉄拳が炸裂した! 涙目になりその場が凍り付く……スネ夫が目を疑う。
「その暗い性格直しなさい、一生無様のまま私を殴れないあんたでいなさいよ!」
「僕らの負けだよ」
のび太がタケコプターで高みの見物だった。やってるやってる。ガキの使いは退屈で醜い言い争い!
「謝罪の気持ちを込めて謝ってくれるかい、お二人さん」
どうせ無理ゲー。逆襲の一幕、僕のバックには秘密道具と“彼”がいるんだぞ……どうする??
「うええ~ん! 酷いぜしずかちゃん、俺帰って母ちゃんの店番手伝う!!」
「逃げろ逃げろ。説教された事も無い人が一人前になれると思うな、骨川君」
「分かったよ。君の方が上だ、好きなだけ僕をなぶってくれ!」
ククク。優越感ってサイコー♪ どうしてくれようか、なあ未来の花嫁! しずかちゃんも腰に手を当てご立腹だ。
「反省文書きに帰ってもいいかい? もう君を二度と虐めない、約束するよ」
「信用しちゃダメ。ただの剛田さんの舎弟よ」
「ハーハッハッハ!! 分かれば良いんだ。さあ、友情の握手をしようではないか」
硬く手と手が結び合う! 空き地に追い風吹きすさぶ……ドラえもんサマサマ。僕の人生も捨てたもんじゃない、確信の核心!
「人には素晴らしき才能の種ってものが在るのさ。水を上げて大切に育て上げればいつか大輪の花を咲かす、紙にメモりな」
「うんうん」
しずかちゃんが僕の勝利を褒めたたえ何度も頷いている……次は恋愛劇でスターになるか、なあ親友!? いつの間にか二人だけになった、白昼堂々の説教時間も終わり。
「ありがとう。しずかちゃん、君にも感謝しているよ」
空には野鳥が翼をはためかせ僕らを祝福してくれる……今がチャンスじゃ? よーし、見てろよジャイ子。誰がお前なんか嫁に迎えに行くか!
「僕と付き合ってください!!」
「……」
あれ? 時が止まった。。最高のタイミングと台本だったはず……男に二言は無いぞ。お邪魔虫はみんな去って行った、期待していた言葉が聞こえない。
「本当に私を幸せに出来るの? 友達から恋人同士になるんでしょ??」
ドラえもんが心配して見に来てくれた、僕に任せろ。はは~ん、そういう系!!
「今すぐ答えなんて出ない。一晩考えさせて、私があの二人にやらしい事されても立ち向かえる?」
首を縦に振り即答する、邪魔するなドラ公! 気が早くないかい……? 心の声が聞こえたような気がした。
「あなたも真剣にもっと私を愛しなさいよ。出木杉君みたいにかっこよくスマートに立ち振る舞いたかったらね」
隣の青タヌキが呆然としていたー次は恋愛成就ってわけね、OK!
「私達はまだ小学3年生の子供同士。人生は長いのよ、ねえドラちゃん」
「恋の勉強はからっきしだね。しょうがない」
しずかちゃんは“女心と秋の空”の物々しい表情を浮かべて帰路へ着いた。僕が間違ってたの? タケコプターの舞いでしぶしぶ戻った。自分の部屋で反省会だ。
「恋愛はムード作りと信頼関係のステップの歩合い制さ。紙に書いて壁にでも貼りな」
「女の子って普段何を考えてるの?」
オスの猫も同情心が否めなかった。ママの階段を上がる音がした、次の瞬間!
「のびちゃん! この前の社会のテストは0点だったくせに、算数の満点の答案なんて……カンニングでもしたの!?」
僕らは目を丸くする、分かってないなあ。
「あなたが犯罪でも手を犯したら未来永劫の来世まで祟るからね、悪い子!」
ちょっと待ってよ~、ドラえもん!! なんでこうなるワケ!?
「世の中なんて思い通りに行かないよう相場が決まって出来てるんだ」
「僕なんか悪いことした!?」
ドラミちゃんがタイムマシンに乗って引き出しを思い切り開けた!
「お兄ちゃん……甘い考え方ね。駄目よ、人の上の立場でも適切な指導が必要なの」
妹のロボット?? 未来の国の世界も諸事情が尽きない。おいおいサイコーかよ!
「それじゃ僕が不幸の方が良いって事じゃないか。馬鹿にしてるのか!!」
「ドラミ。秘密道具を使ったんだ、女子なんて批判がましいね」
のび太への心配が彼女の心を動かした。前途多難……これが社会、テストなんて3級品! ママといいドラミといい、女と男が仲良く取り合える時は来るのだろうか?? 気が付けばドラえもんはノートに文章を書いた、詩?
窓の外は、つむじ風
僕のポケットには何でも揃ってる
少年の記憶……
青空に映る母の愛
両手には父の意志
何でもできる。人生は最高
ありがとう。ずっとトモダチ
「失敗なんて笑い飛ばせ」
物語を綴る夢小説が背中を押す
大丈夫ー
キミニオクリタイコトバ
今夜はもう寝よう。夢を育てて、じっくりじっくり……お楽しみの続きはこれから、ね? のび太君。明日も良い日になる。大人になんてなりたくないーふて寝でも構わない、ずっと一緒にイヨ??