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電話が切れると、鈴華が大きな声で叫びだした。
「さっそく出動だー!」
両手を挙げて喜びを体全体で表している。
「ふん、たかがスマホ一つ。私は留守番しているからな」
先程閉じたノートPCをもう一度立ち上げながら共華はそう話す。
「5分後か。2分もあれば〇☓マンションなんて簡単に着くがな」
飲み干した緑茶の入っていた湯飲みを机に置き、愛華は立ち上がる。
「取り敢えず、準備に一分使うとしたら…………。うん、十分な時間は確保できそう」
メモ帳を見つめながら陸華は独り言を呟いている。
「陸華ー!姉さーん!早く早く!」
鈴華はまるで遠足にでも行くかのようなテンションで、手動の硝子扉の奥で飛び跳ねている。
「鈴姉さん待ってよ〜!私まだ準備終わってない!」
陸華がリュックにメモ帳やペン、電卓やら諸々を詰め込みながら鈴華の声に言葉を返す。
彼女のリュックは見た目以上に多種多様な物が詰め込まれている。本当に使うのか、と疑問に思ってしまうような鈴華の愛読している薄いピンクの本も勿論詰め込まれている。
「これは、、、念には念を、だな」
愛華はそう呟きながら懐から取り出した伸縮可能な棒をもう一度懐に戻した。
何故そんな物がそんな所にあるのかは誰も理解できないだろう。いや、理解しないほうがいいのかもしれない。
まぁ、そんな事はさて置き、陸華の予想通り、一分で準備は終了したらしい。
「準備万端!」
陸華はパンパンになったリュックを背負ってそう声を出す。
陸華のリュックがパンパンになるのはいつもの事なのか、愛華は手っ取り早く陸華のリュックの中身を覗き、必要最低限の物以外はどんどんと出してゆく。
愛華は、鈴華の愛読している薄いピンクの本はそっとリュックの中に戻した。あれは必要なのだろうか。否、愛華が必要だと思うなら、必要なのだろう。
「忘れ物」
共華がそう言って愛華に向かってイヤホンを投げた。
このイヤホンは彼女たち、日常の小さなトラブル解決隊の通信用の機械だ。
「感謝する」
愛華は上手に三人分のイヤホンを受け取り共華へ感謝の言葉を述べる。
「何かあったら連絡するから!」
陸華は手を振り事務所を後にする。
「彼氏から連絡来たから、暫くは連絡してきても出ないから」
そんな陸華とは裏腹に、共華は自身のノートPCを見つめていた微笑んでいた。
事務所の扉を押し開け、三人のドールが外へ駆け出る。
鈴華は、そのまま弾けるように駆け出した。その速さは、まるで風を切り裂く矢のようだ。
陸華は慌てることなく、しかし確実に鈴華の後を追う。彼女の歩みは軽やかで、まるでワルツでも踊っているかのようなステップだ。
愛華はまるで重力から解放されたか のように、ふわりと地面を蹴り、軽やかで、無音で二人の後を追従した。
道行く人々が、一瞬、何が起きたのか理解できない 、という表情で振り返る。しかし、彼らが視線を向けた時には、すでにドールたちの姿は遥か彼方に小さくなっていた。
〇☓マンションの前に到着したのは、陸華が電話を切 ってからきっかり四分五十五秒後だった。
愛華は正確に五秒数え、彼女が零と言った瞬間、三人はエントランスの中から見える位置に行った。
約束通りの時間に現れたドールたちの姿に、エントランスのドアを開けて待っていた依頼主の女性は、目を丸くして驚いている。
それもそのはず、普通車で行ったとしても、二十分程かかるのだから。
「ほ、本当に五分で、、、」
女性は呆然とした様子でその一言だけを呟いた。
「はい、お待たせ致しました。依頼主様」
陸華は穏やかな声で、いつもの可愛らしい笑顔を浮かべて挨拶をする。
そんな陸華の後ろで鈴華は女性の部屋が有るであろう場所を見上げている。愛華は鈴華が飛び出さぬように、鈴華の服の襟を掴んでいた。
「では、さっそくですが、お部屋へご案内いただけますか?」
陸華の言葉に呆然と立ち尽くしていた女性は我に返ったように、慌てて部屋の中へ案内した。