テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
うだるような暑さの中、終わったら川遊びに行こうと約束をして蓮と亮平は夏休みの課題に取り組んでいた。
いや、どちらかと言うと放っておいたらやらない蓮を亮平がせっついていた。
エアコンと扇風機二台体勢にも関わらず、蓮は汗をかいている。
「そんなに暑い?」
亮平が立ち上がる。部屋の隅にある冷蔵庫へと向かい、氷を入れたグラスに麦茶を注ぐ。
パキパキと氷にヒビが入る小気味良い音がした。
「はい」
「ありがと」
首にかけていたタオルで汗を拭って麦茶を一気飲みするので、追加で注いでやる。
「蓮、終わりそう?」
「まさか亮平終わったの?」
「うん」
亮平はそう言いながら『じゃーん』と課題についてまとまったレポートを見せる。
「うわぁ〜」
心から気だるい声を出して、蓮は自分の課題に向き直った。進捗は六割くらいだろうか。
「あつ」
言いながら亮平が手で顔を仰ぎ、エアコンの風量を強めにする。
いつしか亮平も汗をかいていた。首筋を汗が流れる。蓮はその様子に思わず手を止め、汗の行く先をその目で追っていた。
「どうしたの?」
「あ、何でもない…」
蓮がまた課題に向き直ると、亮平は『俺も飲も』という独り言と共に冷蔵庫に向かった。
また見てしまう。ハーフパンツから見える細い脚、いつの間にか汗で少し濡れている背中。Tシャツの袖で汗を拭う雑な仕草までも、蓮を釘付けにした。
大学で仲良くなって毎日グループの一人として一緒にいるのに気づかなかった。
こんなに色っぽかっただろうか?
今までの人生で言い寄ってきたどの女の子より、今目の前で汗ばむ友人は魅力的に映っていた。
氷たっぷりの麦茶を入れたグラスを持って亮平が隣に戻ってきた所で、蓮は彼をぐっと抱き寄せた。
「蓮、暑い……」
訴えは果たして言葉として発せられたのかと思うほど届かなかった。蓮はそのままがっちりと捕まえるように亮平を抱きしめると、その小さな唇を塞ぐ。
亮平の驚いた目を近すぎてぼやけた視界で確認して、蓮は目を閉じるとその唇をそっと吸った。
「ちょ…蓮」
唇が離れたその僅かな隙間から声がして、差し入れられた腕が蓮の身体を押す。
「なに、急に」
「綺麗だなって」
「はぁ?」
暑くておかしくなったの?今日エアコン効き悪いね、とはぐらかすように立ち上がろうとする亮平の腕をしっかり掴んで引き戻す。
そのまま、もう一度。
「おい!んぅっ…んっ、く…ふぁ」
「お願い、煽らないで」
「自分からやっといて…」
何か言いたげだった亮平は、なぜか懇願するような蓮の目を見て呆気にとられ、それからため息をついた。
「…蓮だけ煽るのは、いいの?」
「え?」
組み敷かれた格好のまま、蓮の首に腕を回すと自分の方へと誘導する。
「我慢してたのに。止まんなくなるのは、一緒だって」
「りょ…」
唇が触れる距離で囁かれて、お互いもはや自分を止める術などなかった。
深く合わさった唇がやがてゆるゆると開き、舌を絡め取って混ざり合う。
汗が滴る。
麦茶の氷が溶けて、からん、と音を立てる。
外では、煩いくらいにセミが鳴く。
夏の魔物に取り憑かれた二人を止めるものは、もう何もなかった。
コメント
11件
あっ、麦茶の…
ちゃんと夏の魔物に取り憑かれてる2人🤭🖤💚 今日もよきです✨✨✨
わーん、全部のキーワードが夏してて、瑞々しさとか、頭がぼうっとなっちゃうようなうだるような感じが好き過ぎますー😭💓