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そこは見知らぬ天井だった……
いや、昨日泊まった宿だな。忘れてたわ。
「おはよう。起こしてくれても良かったんだぞ?」
「いえ、今日は街に滞在予定でしたし、昨晩も遅くまで作業していたので」
それは貴女もでしたよ?
昨日の夜はミランと共に転移して、俺は地球に帰り会社に行って砂糖と胡椒を運んだりしていた。
その間ミランは、実家にお土産を持って行ったりしていた。
「聖奈は我慢出来ずに?」
「はい…」
はぁ。聖奈さんは異世界中毒者だからな……
俺達は一人で出掛けた聖奈さんを追うように、宿を出た。
ここは王都とリゴルドーの中間地点の、王弟が治める街『ウィンダスター』だ。
門番に聞いたところ、王弟は普段王都にいるらしいから、飾りかな?
しばらく整地された綺麗な道を進むと、喧騒が聞こえた。
「賑やかだな。市場か?」
「時間が遅いので商店や出店、露店が並んでいる所ではないでしょうか?」
確かに市場だと、もう静かになっている時間か。
「聖奈が居そうな所だな」
「そうですね。見る物には困りそうにないです」
喧騒の発生源は、人と露店などが溢れ返っていた。
年末のアメ◯かよ……
俺は逸れないように、ミランに手を差し出した。
「逸れたら探し物が増えるからな」
照れてそうなミランに、言い訳を与えた。
嘘です!照れているのは僕ですっ!
通りを半分くらい進んだところで、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ああっ!!手を繋いでるっ!ズルイっ!」
「す、すみませんっ!」
ミランは聖奈さんに言われて、慌てて手を離したが……
「ミラン。聖奈は俺に言ったんだぞ?」
「へっ?」
ミランはわからなかったようだが、俺の考えは正しいだろうな。
「セイくんズルイ!私、ミランちゃんと手を繋いだことないのに!」
ほらな?勘違いするなよ!
「聖奈。それよりもどうだった?何かあったか?」
「それよりもって…残念ながらなかったよ…見てて楽しかったけどね」
まぁ、楽しめたなら良いんじゃないか?
「地球で売るものですか?」
「そうだよ。でも目ぼしい物はなかったの…」
「まぁ、気長に探せば良い。とりあえず家具職人を探さないか?」
俺の提案は採用された。
「どうやって探すの?」
むー。確かに……
「こんなのはどうですか?」
ミランが言うには・・・
工房はどうせ街中には無い。当てもなく外を彷徨うより、家具を売っている商店に入り、お金を渡して聞いてみるのが手っ取り早い。
どうせ王都の影響で、こっちでも安い家具が出回っているだろうから、引き抜きを気にせず教えてくれるのでは?
とのこと。
さすが俺達のリーダーだ!
名前だけの冒険者パーティの俺とは違うねっ!
名前だけは会社の社長も俺だな。
見事に全部名前だけだな……
「そうしよっか?当てもないしね」
「そだね」
「どうかしましたか?セイさん?」
そろそろ活躍しないとホントに名前だけの人になる。俺はそれに思考が支配されて、返事がカー◯ングの選手みたいになってしまった。
「セイくんは病気だから放っておこうね」
「えっ…はい」
いや、病気ちゃうから!納得しないで!
俺はどうにか爪痕を残そうと考えたが、やはり出来ることやわかることが二人に比べ少ないことに気付き、諦めた……
「見て。あそこに家具が売ってあるよ」
「ホントだな。いってみようか」
「はい」
その商店は、家具の搬入を考えてか、入り口が大きく中が丸見えで見つけやすかった。
「こんにちは」
「はい。いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?」
出てきた店員さんは30才くらいの男性だった。
「実はお尋ねしたいことがありまして、こちらの家具ですが、製作者の方の居場所を教えて頂けないでしょうか?」
面倒臭いのでストレートど真ん中で聞いてやったぜ!
「王都の商会の方ですか?何度も伝えましたが困ります」
聞いた瞬間、店員さんの顔色が変わり、目付きまで鋭くなってしまった。こぇー。
「いえ。王都の商会ではないです。私はリゴルドーの商人です。
王都の商会で何かありましたか?」
「そうでしたか…いえ、勘違いをしてしまいすみません。
王都のことはご存知ないですか?」
「もしかして、家具を大量生産して、格安で販売していることですか?」
心当たりはこれくらいしかない。ミランの表情が少し曇ってしまったな。すまんな。
「はい。家具以外もありますが、概ねその通りです」
やはり噂以上に手広くやっているようだな。
「実は、それで仕事を無くされた腕の良い職人を、集めているのです。
私達は独自のルートで販売しているので、過当競争により他の職人に迷惑を掛けることはありません」
「それは…もし本当であれば、私のお抱えの職人さんを紹介したいものですね」
そこで顔を暗くさせていたミランが、珍しく話し合いに参加してきた。
「本当です。私の父は家具職人でしたが、王都の商会に仕事を奪われて困っていたところを、この方達…セイさんとセーナさんに助けて頂きました。
リゴルドーに住む、他の職人の人達も助かっています」
感情の籠ったミランの言葉を聞いて、商人さんは口を開いた。
「わかりました。信じましょう。というか、私も職人さんを助けたいのですが、手段がなかったのです。
むしろありがたい申し出です」
「私はリゴルドーで商人をしているセイと言います。こちらは同じく商人で冒険者でもあるセーナ。こちらの子は冒険者のミランです」
「申し遅れました。私はダージンと言います。妻に店番を頼みますので、これから職人さんを訪ねましょう」
こうして無事(?)に作戦は成功した。
やはりストレートで、後は出たとこ勝負が楽で良いな!
奥さんに店番を任せたダージンに先導されて、街を行く。
「御三方は、ウィンダスターは初めてですか?」
「初めてですね。リゴルドーより賑やかな街だと感じました」
「そうでしょう。人口も40,000人くらいいますから、リゴルドーよりも多いですからね」
くそっ!リゴルドーを馬鹿にしやがって!
40,000なんて東◯ドーム満員よりもすくねぇじゃねーかよ!
「ですが、王都に近いせいで影響を多分に受けるので、良いことばかりでは無いですけどね」
都会は怖いからな…よし、許してやろう。
そんなアホなことばかり考えていたら、どうやら着いたようだ。
「こちらが職人さんの家になります」
そう言うとドアをノックした。
「ダンさん。私です。ダージンです」
ガチャ
「ああ。ダージンさんか。何の用だ?借金ならまだ返す当てはないぞ?」
ダージンさんは金を貸しているのか。そりゃますますどうにかしてやりたいよな。
「いえ、お金はいつでも構いません。今日は仕事を紹介するために来ました」
「ん?まさか、王都のクソ野郎達のとこかっ!?
俺はぜってぇいかねぇぞ!?」
扉に隠れて姿は見えないが、口悪いな…誰かの心の声かよ……
「違います!王都の商会とは違い、腕の良い職人さんだけを集めている人に紹介したいのですよ!」
ダージンさんが説明をして、ある程度納得させたところで、俺達を紹介してくれた。
ダンさんは25才と職人にしては若いが、父の跡を継いだ職人らしく、子供の時から道具を触っているから腕は確かだそうな。
「では、私は店に帰るので、後はよろしくお願いしますね」
「ありがとうございました」
俺達はお礼を伝えてダージンさんを見送った。
「それで?アンタらが俺の家具を売ってくれるのか?」
「そうです。いいですか?こちらのお二人は路頭に迷っていた・・・・・・」
ミランが口の悪いダンさんに、明らかに誇張した話を聞かせた。
いや、バーンさんは路頭には迷ってなかったやん?
あんた実の父をつかまえて何言うてますの!?
「そ、そうだったのか……嬢ちゃんも苦労したんだな。
わかった!俺で良ければいくらでも使ってくれ!」
どうやら勧誘は済んだようだな。職人は情に厚いようで、ミランの涙無しでは聞けない話にコロっといってしまった。
「では、工房へ案内してください。全て買い取りますので」
次は聖奈さんが話をする番か。
「ぜ、全部?売れなかったが時間はあったから、数だけは多いぞ…?」
「はい。構いません。ですが条件があります」
うまい話には気をつけろよ……
「な、なんだ?」
「工房を手放して、リゴルドーへ移住してください。
良ければお家も手放してください。そうすればダージンさんへの借金も返せますし、向こうでも暫くは暮らせるお金が手に入ります」
「む、無理だ!いや、リゴルドーに行くのは構わんが、向こうで工房を建てる金がねえ」
「工房はミランちゃんのお父様に、間借りさせてもらってください。
私達が今ある物もこれから作る物も、全て正規の価格で買い取りますので、近いうちに工房を建てることが出来るように、頑張って家具を作ってくださいね」
聖奈さんの挑発とも取れる言葉に、口の悪いダンさんは目を見開き、ついでに口も開いた。
「よ、よーし!言ったな?全部買い取って貰うから覚悟しとけよ!」
どうやら話も纏まったみたいだな。
実物を見ていないが、この手のタイプは手を抜くことを知らないから大丈夫だろう。
…あれ?また何もしていないんじゃ……
その後、四人で馬車に乗り、ダンさんの工房へ向かった。
「結構あるが大丈夫か?」
「ええ。160万ギル程だと思いますが、如何でしょうか?」
バーンさんとの取引のお陰で、大分見る目が鍛えられたから、そこまで外していないだろう。
「お、おう。俺の販売価格と寸分も違わねぇ…」
後はここと家を売れば、ダンさんはリゴルドーに行けるな。
「こちらがお金です。夜には運ぶので、鍵は開けたままにしておいてください。
必要な道具などは、今馬車に積んでしまいましょう」
ようやく俺の出番になったことで、饒舌に喋れたぜっ!
俺の活躍(?)により、その後は滞りなく進んだ。